判決言い渡しと民事,刑事の違い

判決文未完のまま言い渡し 岐阜地裁裁判官、懲戒へ」(日本経済新聞)

岐阜地裁の裁判官が,懲戒される可能性があるようです。

内容としては,本来判決書の原本が完成した状態で判決言い渡しをしなければいけないにもかかわらず,忙しかったために,原本ができる前に言い渡しをしてしまったとのことです。

 

民事の裁判は,民事訴訟法においては,判決は,判決書の原本に基づいてすることとされています(民事訴訟法252条)。

そのため,判決書の下書きを利用して判決することは,同条に違反し違法な判決となります。

 

これに対して,刑事の裁判は,刑事訴訟法においては,判決は,宣告によりこれを告知するとされています(刑事訴訟法342条)。

そのため,判決の下書きで判決を告知しても,違法にはなりません。

実際,判決書は必ずしも判決宣告時に作成されていることを要しないと判断されています(最判昭25.11.17)。

 

上記の裁判官も,刑事事件であれば判決書がなくても懲戒されることはなかったでしょう。

恋愛感情その他の好意の感情

以前,恋愛についてブログを記載し,その際に恋愛感情の定義が気になる旨を述べました。

 

そこで,恋愛感情その他の好意の感情についてまじめに論じた裁判例はないかを調べてみました。

 

結果として,東京高等裁判所で,構成要件としての明確性という観点で問題になった裁判例を発見しました!

ちなみに,構成要件としての明確性とは,かみ砕いて言うと法律で曖昧な内容を定めて,これを刑罰で罰しようとすると,何をしてよくて何をしてはいけないかはっきりとわからず,運用が恣意的になるなど問題があるから,一般の人が法律をよんだときに,何をしてはいけないかわかるぐらい明確にしないとだめです,ということです。

 

本件の判決文は,弁護士の主張に対して裁判所が回答する形で書かれているため,まずはこれをわかりやすく対応する形で抜粋して引用します。

そのうえで,判決文独特のわかりにくさを避けるため,これを私が意訳した文書を追記します。意訳のため,若干荒々しい内容となるのはご容赦ください。

 

 

東京高等裁判所平成28年(う)第610号

弁護士 『「好意の感情」などというものは、人間の内心の心理状態というそもそも曖昧な概念の中でも、とりわけその外縁を画することが困難な概念であって、このような概念を刑罰法規の要件に掲げること自体不適当である』

裁判官『「好意の感情」とは、一般的には好きな気持ち、親愛感のことをいうと解されるが、ストーカー規制法においては、その構成要件上、「好意の感情」等を充足する目的が必要とされているから、本件規定違反の犯罪が成立するためには、単に一般的に好ましいと思う感情だけではなく、相手方がそれにこたえて何らかの行動をとってくれることを望むという意味での「好意の感情」があり、かつ、それを充足する目的が存在すると認められる必要があると解される。この意味における「好意の感情」は、上記の判断基準に照らしても明確である…』

中村による意訳

弁護士『「好意の感情」なんて,人の気持ちの問題であいまいで,何が行為の感情かはっきりとはわからないのだから,これをもとに罰するのはおかしい』

裁判官『「好意の感情」とは,一般的には好きな気持ち,親愛感のことを言います。

ストーカー規制法では,好きな気持ちなどを充足したいということまで必要なので,好きな気持ちに加えて,相手がそれにこたえてくれるという意味での「好意の感情」のことを言います。

そして,実際に相手を応えさせようという目的が必要です。このように考えれば,一般人が判断できるので問題ありません』

 

恋愛感情についてははっきり述べていませんが,好意の感情については,

①「好きな気持ち,親愛感」であり,

②「相手方がそれにこたえて何らかの行動をとってくれることを望む」ところまで必要ということです。

そして,恋愛感情は,「恋愛感情その他の好意の感情」として,好意の感情の例示となっていることから,上記①及び②に,さらに要件が加わるということになります。