2種類の慰謝料請求権

 配偶者の不貞行為を原因として離婚する際,離婚訴訟と同時に,または離婚後に配偶者に対して慰謝料を請求することがあります。
 
 この不貞行為を原因とする離婚の慰謝料請求については2種類あって,ひとつは,離婚の原因となる不貞行為など,個々の有責行為に対する慰謝料請求と,もうひとつは,そのような有責行為を原因として離婚を余儀なくされたという,離婚そのものに対する慰謝料請求です。
 
 いずれもその性質は,不法行為に基づく損害賠償請求であり,民法709条などが根拠となります。

 この2種類の慰謝料請求は,離婚訴訟と同時に請求する場合には,通常あまり区別されることがありません。
 
 ただ,離婚後にしばらく経ってから慰謝料請求のみを行うような場合には,2つの区別が問題となる場合があります。
 上で述べたとおり,これら2種類の慰謝料請求権は,いずれも不法行為に基づく損害賠償請求権です。
 改正後の民法第724条(改正前も内容は同じ)では,以下のように規定されています。
 
「不法行為による損害賠償の請求権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
  一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。」
 
 つまり,2つの慰謝料請求における「損害」が異なれば,請求権が時効によって消滅するときが異なることになり得るわけです。
 
 この違いが現実に問題になるような案件は弁護士をやっていても,そんなにありませんが,ご相談自体は,名古屋でも割とあります。

 この点について,最高裁昭和46年7月23日判決は,配偶者の虐待等を理由とする離婚にともなう慰謝料請求のケースでしたが,離婚そのものに対する慰謝料請求については,「・・・有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害のは,離婚が成立してはじめて評価されるものであるから,個別の違法行為がありまたは婚姻関係が客観的に破綻したとしても,離婚の成否がいまだ確定しない間であるのに右の損害を知り得たものとすることは相当でなく,相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなど,離婚が成立したときにはじめて,離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り,かつ,損害の発生を確実に知ったこととなるものと解するのが相当である。」と判断し,個別の有責行為による損害発生時からではなく,離婚判決の確定時から3年は,損害賠償請求権は時効によって消滅はしないとしました。

 上記判例は,離婚が訴訟で争われ,配偶者の虐待等が,訴訟によって有責行為と判断される必要があったケースですが,それでは,例えば,配偶者の不貞行為が発覚し,その後,不貞行為に対する慰謝料請求権は時効により消滅してしまったといえるような時期になって離婚した,というようなケースで,離婚にともなう慰謝料請求は認められるのでしょうか。

 このようなケースについて,下級審ではありますが,上記3の最高裁判決を引用して,離婚から3年は慰謝料請求ができる,と判断した裁判例があります。
 
 不貞行為自体はずいぶん前に終了していて,離婚の時期がずっと後になった場合でも,離婚そのものの慰謝料請求であれば認められる,というのは,なんとなく変な感じがします。
 
 離婚の原因が不貞行為であって,その関連が強ければ強いほど,不貞行為そのものによる損害の発生と,離婚による損害の発生は重なるような気がします。
 
 事案ごとに慎重に判断しなければならないところだと思います。