債権法改正 請負

1 請負契約の変更点
  今回は,債権法の変更(やっぱり弁護士なので「改正」とは書きたくない。)のうち,請負契約について書きます。
  請負をはじめとした有償契約については,売買の規定を準用することになっており(この点については変更なし。第559条),請負人の責任については,債務不履行一般の原則規定が適用されることになります。
  従来の瑕疵担保責任(変更後の契約不適合責任)についても,売買契約の規定が準用されることになるため,現行民法の,請負契約特有の瑕疵担保責任の規定は大幅に削除されることになります。
  また,仕事が完成せずに終了した場合の報酬請求に関する規定として,第634条が新設され,最判昭和56年2月17日などの判例法理が明文化されました。
  以下,瑕疵担保責任から順に変更点をみてみます。
2 担保責任について
  現行民法の第634条が削除され,追完請求等は,売買に関する第562条等が準用されることになりました。
  現行民法の第635条も削除され,契約の解除は第541条及び542条の規定に従うことになりました。
  これによって,例えば,仕事の目的物が建物であったとしても,重大な瑕疵があり,契約の目的を達することができず,追完もできないような場合は,請負契約を解除できることになりました。
  さらに,現行民法第638条も削除され,建物の担保責任が引渡しから5年間存続したり,石造等の工作物については10年存続する,という規定がなくなりました。
  その代わりに,変更後の第637条によって,担保責任の期間制限が,現行法の,引渡しから1年以内の請求(または解除)を要するとの規定から,注文者が契約の不適合を知ってから1年以内の通知を要するとの規定に改められました。
3 中途終了の場合の報酬請求権について
  新設の第634条で,請負人が既にした仕事の結果が可分で,仕事完成が不能になった事由が注文者の責に帰することができない事由である場合や,仕事完成前に解除されたような場合は,可分な部分の給付で注文者が利益を受けるときは,その部分を完成とみなすと規定されました。
  これも,最判昭和56年2月17日で確認された判例法理の明文化です。
  この場合に,請負人の債務不履行があるような場合は,別途債務不履行の問題が生じますが,報酬請求権は発生することになります。
  また,注文者の責に帰するべき事由によって仕事完成が不能になった場合には,請負人は報酬の全額が請求できるという最判昭和52年2月22日が維持されると解されています。
  請負については以上です。

債権法改正 賃貸借④

1 賃貸人の地位の留保
  前回に続いて,債権法変更(「改正」とはやっぱり言いたくない。弁護士なので)のうち,賃貸借契約の規定を確認します。
  前回,変更後の第605条の2のうち,2項以外の,賃貸人の地位の移転に関しての規定を確認しました。
  今回は,2項の,賃貸人の地位の留保について確認します。
  前回確認したように,賃貸借の目的物件の所有権が移転する場合は,賃借人が賃借権について対抗要件を備えていれば,賃貸人の地位が当然に移転するのが原則です。
  ただし,2項により,不動産の譲渡人と譲受人が,賃貸人の地位を譲渡人にそのまま留めておく旨の合意をしたときは,賃貸人の地位は,譲受人には移転しないことになります。
  ここは,最判平成11年3月25日で否定された結論と逆の内容が明文化されています。
  条文で規定されているのはここまでです。
  賃貸人の地位が留保された結果,賃貸目的物の新所有者である譲受人が,賃貸人の地位を留保した譲渡人に対して賃貸目的物を賃貸し,譲渡人が賃借人に対してさらに目的物を賃貸するという,転貸借の関係が成立することになります。
  そこで,転貸借関係を規律する変更後の民法第613条が,この場合にも適用されるのかが問題となります。
  第613条3項本文は次のような規定です。
  「賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には,賃貸人は,賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。」
  一応,賃貸人の地位の留保によって生じた転貸借関係の転借人については,その地位は第605条の2第3項などで保護されているので,この第613条3項の適用は否定される,というのが有力説のようですが,結論としては,「今後の解釈に委ねる」とのことらしいです。
  なぜこういう風に変更されたのかもよく分からないんですが,どうせ民法をここまでいじくるなら,この辺についてもちゃんと定めておいてもらえればいいんですけども,もう施行時期まであと少しなので,まあどちらでもいいです。
2 合意による賃貸人の地位の移転
  今までは,賃貸目的物の所有権の移転により,当然に賃貸人の地位が移転するという,民法605条の2の規定を確認しましたが,民法の変更により,賃借人が賃借権の対抗要件を備えていないような場合にも,賃貸人の地位の移転は,合意によっても行うことができることが明文化されました。
  この部分は,最判昭和46年4月23日で確認された判例法理の明文化です。
  この辺で,賃貸借についての確認は終わります。

債権法改正 賃貸借③

1 判例法理の明文化とやらについて
  今回は,債権法の変更(やっぱり「改正」とは絶対に書きたくない)のうち,賃貸借の規定で,「判例法理の明文化」といわれる規定について引き続き確認していきます。
  前回も書きましたが,今回触れる,賃貸人の地位の移転についての判例は,弁護士にとっては条文で規定されているのと同じくらい有名な判例法理ではありますが,せっかく法律を変更するのであれば,条文で規定してもらっても別に構いません。ただ,今までの判例で確立された部分については条文にしたけど,結局判例でも明らかになっていない部分は今後の解釈に委ねる,という形になっているので,どうせならその部分も条文にしてもらって良かったんですけどね,とは思います。
  愚痴はともかく,賃貸人の地位の移転についての変更後の民法の規定について確認します。
2 賃貸人の地位の移転
  新設の第605条の2の1項では,賃借人が賃貸借についての対抗要件(賃借権の登記など)を備えているときに,賃貸物件について所有権の移転(いわゆるオーナーチェンジ)があったら,賃貸人の地位も,賃貸物件の新所有者に移転する,ということが規定されました。
  大判大正10年5月30日,最判昭和39年8月28日などの判例法理を明文化したものです。
  賃貸人の地位を移転させる,というのは,契約上の地位の移転ですから,もしこの規定がなければ,変更後の民法においては,本来であれば,第539条の2が規定するように,契約上の地位を譲渡する者,譲り受ける者,契約当事者の一方の三者で合意しなければならないところですが,賃貸人の貸す債務というのは,誰が履行してもあまり変わりがないので新所有者に履行させればよいという判断で,賃貸借の場合には,目的物の所有権移転によって当然に賃貸人の地位が移転する(賃借人の承諾が不要)ということになっています。
  そして,同条2項をいったんとばして第3項では,賃貸人の地位の移転を賃借人に対抗するには,目的物件の所有権の移転の登記が必要であるという,最判昭和49年3月19日で確認された判例法理が明文化されています。
  地位の移転に際しては賃借人の承諾は不要といっても,賃借人も,いつからだれに賃料を支払えばよいか分からなくなっては困るので,新賃貸人が賃借人に賃料を請求するような場合は,賃借人が認めるのでなければ,自分に所有権が移転したことを登記で客観的に分かるようにしておかなればならないという規定です。
  そして,同条4項では,費用償還請求権や敷金返還請求権も新賃貸人に引き継がれるという,最判昭和46年2月19日,最判昭和44年7月17日の法理が明文化されています。
  次回は,今回とばした3項と,第605条の3を確認します。

債権法改正 賃貸借②

1 賃貸借についての変更の概要
  前回から民法の債権法の変更(「改正」とは意地でも言わない)について書いてますが,今回は,まず,どのような変更があったのか,ザっとみてみます。
  まず,弁護士にはなじみのある,現行民法下での判例理論を明文化した規定といえるのは,第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了),第605条(不動産賃貸借の対抗力),第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)第605条の3(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転),第605条の4(不動産の賃貸人による妨害の停止の請求等),第613条(転貸の効果)3項,第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了),第621条(賃借人の原状回復義務),第622条の2(第4款 敷金)といったあたりです。
  次に,第606条(賃貸人による修繕等)の1項で規定される賃貸人の修繕義務の範囲や,第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)で規定される賃料減額につき,請求を待たず当然に減額されるとの変更,第602条(短期賃貸借)の規定からの「処分につき行為能力の制限を受けた者」の部分の削除など,従来から当然と思われていたことを確認する変更や,従来不合理と思われていた規定の削除・変更などがあります。
  また,賃貸借の存続期間の上限については,現行民法の20年から,50年に変更されました(第604条)。
  従来から,建物所有目的の土地賃貸借契約においては,借地借家法で20年を超える期間を存続期間とすることが認められていましたが,重機やプラントなど,借地借家法が適用されない場面で長期の賃貸借の必要があるということで,今回変更されることになりました。
  というわけで,以下,「判例法理が明確化された」といわれる規定についてみていきます。
2 変更後民法第616条の2について
  まず簡単なところからいくと,変更後の民法第616条の2は,賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了について規定しています。
  現行民法では,賃貸借の目的物の全部が滅失した場合に,賃貸借契約自体がどうなるのか,明文の規定が存在しませんでした。
  立法担当者は,当然終了するもので条文で規定するまでもないと考えたのでしょうか。
  それでもやっぱり規定がないと争いにはなるわけで,判例(最判昭和42年6月22日,最判昭和32年12月3日)で確認されたとおりの条文が今回新設されました。
  次回は,その他の判例法理の明文化といわれる規定を確認していきます。