貸金庫に遺言書を保管するとどうなる?

名古屋で相続の相談をお受けしていると,貴重品の保管に,銀行の貸金庫を利用されている方が多いと感じることがあります。
しかし,遺言書を貸金庫に保管するときは注意が必要です。
公正証書で作成した遺言書であれば,公証役場に原本が保管されるのでそこまで問題にはなりませんが,例えば,一部だけ作成した自筆証書の遺言書を,大事なものだからということで貸金庫に保管すると,少し困ったことになる可能性があります。

以下のような事例を考えます。

被相続人甲さんには,相続人の長男乙さん,二男丙さんがいます。
生前,甲さんは,乙さんに面倒をみてもらい,乙さんに感謝していたので,全く疎遠で面倒もみてくれない丙さんより,乙さんに多くの財産を相続させる遺言書を作成して,甲さんが契約する貸金庫に保管しました。
甲さんが亡くなった後,遺言書が貸金庫に保管してあることを知った丙さんは,遺言書があるなら持ち出したいと思い,貸金庫を開扉してもらうために銀行をたずねました。
この事例で,丙さんは,貸金庫を開けて,遺言書を確認できるでしょうか。

まず,法律的には,貸金庫契約は,金融機関が貸金庫室内に備え付けられた貸金庫ないし貸金庫内の空間を利用者に貸与し,有価証券,貴金属等の物品を格納するために利用させるものとされており(最判平成11年11月29日),法的な性質は賃貸借契約であると考えられています。
契約者である被相続人が死亡しても,賃貸借契約である貸金庫契約は当然には終了せず,貸金庫契約にもとづく賃借権は,相続人に相続されることになります。
したがって,上の例では,乙さんと丙さんが貸金庫の賃借権を承継し,各相続人の準共有状態になります。
そして,貸金庫を開扉して,中にある遺言書の存在を確認するのみであれば,貸金庫の賃借権の内容等に変更を加える行為ではなく,相続手続の準備のため,他の相続人にも利益となるから,保存行為として,問題なく相続人の一人でも行えそうです。
また,遺言書の持ち出すために貸金庫を開扉する行為も,遺言書自体を持ち出すことをどう考えるかは難しいですが,検認手続という,遺言執行の前提として不可欠な手続のために必要であり,他の相続人にも利益となるから,これも保存行為と考えることが可能ではないかと思われます。

ただし,法律的にどう考えるかとは別に,金融機関が,相続人の一人からの貸金庫の開扉に応じるかどうか,という,実務上の問題があります。
金融機関は,相続人が揉めている,あるいは揉めそうだ,というような場合に,相続人の一人からの貸金庫開扉には応じない傾向にあります。
金融機関側から,開扉行為が保存行為にとどまるのか,それとも相続人の全員の同意を要する処分行為となるのかの判断が困難であり,一人の相続人の求めに応じて開扉して,後日,他の相続人からクレームがあることを避けたいと考えるのは無理もないところでもあります。
したがって,上の例で,丙さんが,「遺言書があるはずだ」と主張して貸金庫の開扉を求めても,「他の相続人の同意をもらってください」と断られる可能性が高いです。

それでは,丙さんはどうしたらよいのでしょうか。

一応,弁護士や公証人が関与して,貸金庫の開扉を求める方法はあるにはあるのですが,それよりも,遺言書を作成される方が,自筆証書で遺言を作成する場合,同様の内容のものを複数作成して,複数の場所で保管するなどの工夫が必要です。
また,1通しか作成していないのであれば,貸金庫に保管するのは控えた方がよいと思われます。

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