相続放棄と相続財産の管理について④

前回までで,民法第940条を挙げて,相続放棄したとしても,次の相続人が相続財産の管理を開始できるまでの間は,相続財産の管理義務は継続することをご説明しました。
今回は,最後に,「相続人の全員が相続放棄した後は,財産の管理義務はどうなるのか」について書きます。

まず,民法第940条1項の条文を(しつこいですが)もう一度挙げます。
「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と定めてあります。

この条文を素直に読むと,相続人全員が相続放棄すると,もはや次順位の相続人がいない以上,「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができる」時が来ないんじゃないか,と思えます。

しかし,相続人がいない場合の相続財産の扱いについても,民法では規定されており,簡単にいうと,相続人の代わりに,相続財産管理人が家庭裁判所によって選任されることになり,相続財産管理人が,相続財産について管理していくことになります。

・・・なんだ,問題は解決するじゃないか,と思われた方,すみません。
相続財産管理人はどうやって選任されるのか,という問題があります。
相続財産管理人の選任については,民法第951条,第952条に定められています。
民法第951条は,「相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は,法人とする。」と定め,第952条は,「前条の場合には,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求によって,相続財産の管理人を選任しなければならない。」と定めています。
このように,相続財産管理人は,申立によって選任されることになっています。
「利害関係人」とは,「相続財産の帰属について法律上の利害関係を有する者」とされており,遺贈を受けた者,相続財産の債権者・債務者,特別縁故者などがあたります。
預貯金等がかなりあって,借金もそれなりにあるような方がなくなった場合で,相続人がいなければ,債権者が利害関係人として相続財産管理人の選任を申し立てることはあるかもしれませんが,不動産のように管理を要する相続財産のみが存在するにもかかわらず,相続人全員が相続放棄したような場合には,相続放棄した人が,相続財産管理人の選任申立をして,相続財産管理人に管理を引き継がなくては,相続財産の管理義務を免れないと解釈することになります。

ここで最後の大きな問題なのですが,相続財産管理人の申立に際しては,手続費用について申立人が予納する必要があります。
相続財産の中から手続費用を支出できればよいのですが,そもそも相続人全員が相続放棄するようなケースで多いのは,管理の必要がある不動産のみが相続財産で,それ以外に目立った資産はなく,かつその不動産も価値がない,といったパターンですから,この予納金が相続財産から捻出できないことが多いと思われます。
このような場合は,最後に相続放棄する人が予納金を負担せざるを得ない形になりますので,相続財産の管理は本当に難しい問題です。
名古屋も最近台風が多く,相続財産管理の問題が多く発生しないか弁護士としては心配しております。

相続について名古屋でお悩みの方はこちら

相続放棄と相続財産の管理について③

 前回までで,相続人に順位があり,その順位は①被相続人の子,②被相続人の直系尊属,③被相続人の兄弟姉妹(代襲相続に関する説明は省きます)という順位になっており,先順位の相続人がいる場合は,次順位以降の人は相続人にはならない,ということをご説明しました。

 話を先に進めると,このように,相続人に順位があり,また,相続放棄の効果として,民法第939条が,「相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす。」と定めていることから,ある人が相続放棄した場合に,相続人の順位の繰り上げが起こることがあります。

 例えば,甲さんがなくなり,甲さんの子が乙さん,丙さんで,甲さんのお父さんが丁さんで,乙さん丙さんが相続放棄をしようとしているケースを考えると,乙さんだけが相続放棄しても,まだ子の丙さんがいますので,丙さんも相続放棄しなければ,丁さんは相続人になりません。
 この後,丙さんも相続放棄すると,第1順位である被相続人の子が,全員「初めから相続人とならなかった」ことになり,第2順位の丁さんが相続人になります。

 やっと,民法第940条の規定に戻ります。
 もう一度民法第940条を挙げると,「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と定めてあります。

 つまり,この条文は,先ほどの例でいうと,乙さん丙さんが相続放棄しても,丁さんが相続人となって,相続財産の管理を始めるまでは,乙さん丙さんは相続財産の管理義務を免れない,ということを規定しているのです。

 また,この条文は,典型的には,このように順位の繰り上げが起こった場合に適用される規定ではありますが,例えば,乙さんが先に相続放棄して,同順位の丙さんが相続放棄してない場合も含むと解釈されていますので,その解釈に従うなら,相続開始後,事実上,財産を一人で管理していた乙かんが相続放棄した場合,丙さんが管理を開始できるようになるまでは,やはり乙さんに管理義務があることになります。
  
 以上のように,民法第940条に従うと,相続放棄しても,次に相続人になる人が相続財産の管理を開始するまでは,財産の管理義務を免れないことになります。

 つまり,弁護士としては,名古屋でも先日の台風で,相続財産として管理していた建物が壊れた,などの影響は出たとしたら,相続放棄をしたからといって,その時点で相続財産の管理義務を免れると考えるのは難しいので,他の相続人が管理できる状態になるまでは,管理を継続した方がよいでしょう,とお答えすることになります。
 
 残る問題は,「じゃあ,相続人が全員相続放棄して,相続人がいなくなったらどうするか?」という点ですが,この点については次回ご説明いたします。

相続放棄と相続財産の管理について②

 前回は,相続放棄したとしても,どうやらすぐには被相続人の財産の管理義務から逃れることはできないらしい,ということに関して,民法第940条1項の条文をご紹介しました。
 もう一度,民法第940条1項を挙げると,「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」という条文でした。
 この条文を理解するために,今回は,「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」の意味をご説明します。

 相続人には,「順位」があります。
 まず,ある人が亡くなった時,その人の配偶者(夫あるいは妻)は,いつでも相続人になりますので,順位は,第1順位になる人と同順位ということになります。
 民法第890条は,「被相続人の配偶者は,常に相続人となる。」と定められています。
 配偶者とともに,だれが相続人になるのか,について順位があります。
 相続人の順位に関係する条文は,民法第887条と第889条です。 
 まず,第887条1項に,「被相続人の子は,相続人となる。」と定められており,第889条1項に,「次に掲げる者は,第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。」と定められ,その「次に掲げる順位」というのは,「1 被相続人の直系尊属。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。 2 被相続人の兄弟姉妹」と定められています。

 ややこしいのでここまでを整理すると,
 まず,相続人の順位1番は被相続人の子です。
 亡くなった方にお子さんがいたのであれば,民法第887条1項と第890条より,そのお子さんと,配偶者がいれば配偶者とが相続人になります。
 この場合は,亡くなった方の親や兄弟は相続人とはなりません。

 次に,亡くなった方にお子さんがいなかったのであれば,第889条1項1号により,その方の親が相続人になります。
 この場合に,亡くなった方に配偶者がいたのなら,配偶者も相続人となります。
 仮に,亡くなった方の両親ともなくなっていたが,その親が存命なら,第889条1項1号のただし書きにより,親の親が相続人になります。
  
 そして,亡くなった方に子もいない,親も(そのまた親も,そのまた親も・・・)いない,ということで,亡くなった方より上に遡ってもだれもいない場合には,亡くなった方の兄弟姉妹が相続人となります。

つまり,相続人には,①被相続人の子,②被相続人の直系尊属,③被相続人の兄弟姉妹,という順位があり,先順位の相続人がいる場合は,次順位の人は相続人にはならないことになります(代襲相続については説明が複雑になるので触れません)。

やっと相続人の順位の説明が終わりましたので,次回は相続放棄後の財産管理義務の話に戻ります。

 名古屋でも先日の台風の影響で,相続財産の建物が棄損したというご相談を受けますので,タイミング的にお悩みの方はいらっしゃるかと思いますので,弁護士として少しでも本記事をご参考にしていただければと思います。

相続放棄と相続財産の管理について①

 相続について名古屋でご相談を受けていて,最近多いのは,「被相続人が,古くて価値のない建物を所有していたのだが,今ではだれも住んでいないし,自分達もそんな不動産は欲しくないので,相続放棄したい」というようなご相談です。
 たしかに,無価値で管理の手間ばかりかかる不動産であれば相続したくないと思われるのは当然です。
 気になるのは,「相続放棄すれば,問題は全て解決するのか?」という点です。
  
 法律がどのようになっているのかを確認してみます。
  
 まず,被相続人が亡くなって,相続が開始した時点では,被相続族人の所有していた財産について,だれにどのような管理の義務が課せられているかについては,民法第918条1項本文に規定があります。
 民法第9181項本文には,「相続人は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければならない。」とあります。
 ここで,「その固有財産」というのは,相続人が,相続開始前から所有していた自分自身の財産のことをいいます。
 つまり,相続開始後は,法律では,相続人に被相続人の財産の管理義務が課されており,その管理の際の注意義務の程度としては,他人に管理を任されて預かっている財産ほどではなくても,自分自身の財産と同じ程度の注意義務をもって管理する,ということになっています。

 そして,民法第939条により,「相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす。」と定められており,また,さきほどの民法第918条1項のただし書きにも,「ただし,相続の承認または放棄をしたときは,この限りでない。」と定められていますから,相続放棄をすれば,とりあえず,被相続人の財産について,民法第918条1項の定める管理義務を免れることになりそうです。
  
 しかし,お話はここで終わりではありません。
 法律は,このように,相続人の誰かが相続放棄をした場合,被相続人の財産が放置されたりすることで,財産の価値が減少し,次順位の相続人に迷惑がかかるようなことがないようにするため,次のような規定を用意しています。
 民法第940条1項がその条文で,「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産と同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と定められています。
 この条文の意味を理解するには,まず,「その放棄によって相続人となった者」というのがだれなのか,相続人の順位について説明が必要ですので,次回は相続人の順位についてご説明します。