2種類の慰謝料請求権

 配偶者の不貞行為を原因として離婚する際,離婚訴訟と同時に,または離婚後に配偶者に対して慰謝料を請求することがあります。
 
 この不貞行為を原因とする離婚の慰謝料請求については2種類あって,ひとつは,離婚の原因となる不貞行為など,個々の有責行為に対する慰謝料請求と,もうひとつは,そのような有責行為を原因として離婚を余儀なくされたという,離婚そのものに対する慰謝料請求です。
 
 いずれもその性質は,不法行為に基づく損害賠償請求であり,民法709条などが根拠となります。

 この2種類の慰謝料請求は,離婚訴訟と同時に請求する場合には,通常あまり区別されることがありません。
 
 ただ,離婚後にしばらく経ってから慰謝料請求のみを行うような場合には,2つの区別が問題となる場合があります。
 上で述べたとおり,これら2種類の慰謝料請求権は,いずれも不法行為に基づく損害賠償請求権です。
 改正後の民法第724条(改正前も内容は同じ)では,以下のように規定されています。
 
「不法行為による損害賠償の請求権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
  一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。」
 
 つまり,2つの慰謝料請求における「損害」が異なれば,請求権が時効によって消滅するときが異なることになり得るわけです。
 
 この違いが現実に問題になるような案件は弁護士をやっていても,そんなにありませんが,ご相談自体は,名古屋でも割とあります。

 この点について,最高裁昭和46年7月23日判決は,配偶者の虐待等を理由とする離婚にともなう慰謝料請求のケースでしたが,離婚そのものに対する慰謝料請求については,「・・・有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害のは,離婚が成立してはじめて評価されるものであるから,個別の違法行為がありまたは婚姻関係が客観的に破綻したとしても,離婚の成否がいまだ確定しない間であるのに右の損害を知り得たものとすることは相当でなく,相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなど,離婚が成立したときにはじめて,離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り,かつ,損害の発生を確実に知ったこととなるものと解するのが相当である。」と判断し,個別の有責行為による損害発生時からではなく,離婚判決の確定時から3年は,損害賠償請求権は時効によって消滅はしないとしました。

 上記判例は,離婚が訴訟で争われ,配偶者の虐待等が,訴訟によって有責行為と判断される必要があったケースですが,それでは,例えば,配偶者の不貞行為が発覚し,その後,不貞行為に対する慰謝料請求権は時効により消滅してしまったといえるような時期になって離婚した,というようなケースで,離婚にともなう慰謝料請求は認められるのでしょうか。

 このようなケースについて,下級審ではありますが,上記3の最高裁判決を引用して,離婚から3年は慰謝料請求ができる,と判断した裁判例があります。
 
 不貞行為自体はずいぶん前に終了していて,離婚の時期がずっと後になった場合でも,離婚そのものの慰謝料請求であれば認められる,というのは,なんとなく変な感じがします。
 
 離婚の原因が不貞行為であって,その関連が強ければ強いほど,不貞行為そのものによる損害の発生と,離婚による損害の発生は重なるような気がします。
 
 事案ごとに慎重に判断しなければならないところだと思います。

印紙代はいくらか?

 訴状に貼る収入印紙の金額は,訴額によって決まります。

 そして,訴額をいくらと計算するかについては,法律があるわけではなく,「訴訟物の価額の算定基準について(昭和31年12月12日民事甲第412号高等裁 判所長官、地方裁判所長あて民事局長通知)」という,もともと裁判所内部で,各裁判所における受付事務取扱の参考資料として作成されたものに概ね従っています。

 この訴額の中には,例えば,共有物分割請求訴訟を提起するとすると,「分割前の目的物に対して原告が有する共有持分の価額の3分の1」などという形で,特に,不動産関連の訴訟では,割り算の結果を訴額とする基準が示されているものが結構あります。
 そして,目的物の価額は,不動産については,固定資産税評価額が基準となります。

 そこで,たまに悩むのが,「割り切れないときに訴額はいくらと決めればよいのか?」です。

 例えば,割り算した結果が,219万9999円99銭,だったとします。
 このとき,小数点以下を切り捨ててよいなら,訴額は219万9999円となり,この場合の印紙代は,1万5000円となります。
 仮に,小数点以下を切り上げ,または四捨五入しなければならないとすると,訴額は220万円となり,印紙代は1万6000円となります。

 この差は,訴額が大きくなればなるほど大きくなるといえるので,馬鹿にできない問題です。

 先に触れたとおり,特に訴額の計算について法律で定められているわけではないので,小数点以下の扱いについても,はっきり決まっているわけではありません。
 ただ,他の法律で,端数計算について参考になるものがありました。

 「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第3条は,債務の支払金の端数計算について,以下のように規定しています。
 「債務の弁済を現金の支払により行う場合において,その支払うべき金額(数個の債務の弁済を同時に現金の支払により行う場合においては,その支払うべき金額の合計額)に50銭未満の端数があるとき,又はその支払うべき金額の全額が50銭未満であるときは,その端数金額又は支払うべき金額の全額を切り捨てて計算するものとし,その支払うべき金額にも50銭以上1円未満の端数があるとき,又はその支払うべき金額の全額が50銭以上1円未満であるときは,その端数金額又は支払うべき金額の全額を1円として計算するものとする。ただし,特約がある場合には,この限りでない。」
 つまり,債務の支払金の計算においては,割り算した後の金額の小数点以下を四捨五入する,ということになります。

 この規定を類推すると,訴額の計算においても小数点以下は四捨五入,ということにはなりそうです。

 というわけで,私は名古屋では四捨五入するようにしていますが,他の弁護士がどうされているかはよく分かりません。

登記申請手続の代理人

別に隠してたわけではないんですけど,実は私,司法書士の資格も持ってまして,最近司法書士会のお仕事もたまに手伝わせていただいています。

その中には,非司調査というものがありまして,要するに,「司法書士の資格のない人が,業として,登記申請手続の代理をやってないか調査する」というものです。

簡単にいうと,登記申請手続の代理業務を,対価をいただいて反復して行うことができるのは,基本的には司法書士だけなので(弁護士とか,会社設立登記における公認会計士など,他の法律で認められている場合は除きます),例えば,行政書士や税理士が,会社関係の登記申請を対価をいただいて行っている,ということになると,ちょっと待ってくださいよ~,ということになります。

調査の内容については守秘義務がありますので具体的にはいえないですけど,そもそもこのような調査を継続的に行なわなければならない状態であるということは,やっぱり行政書士の方や税理士の方による,(あくまで司法書士側から見て,ですが)疑わしい申請というのが一定程度ある,ということだと思います。

しかしこれはなかなか難しい問題で,ギリギリセーフ(アウト?)っぽいものも結構あるでしょうし,そもそも,司法書士会的には非司行為と認定する事例でも,行政書士の側では業務範囲内です,というものもあるかもしれません。

これは,実は弁護士業界と司法書士業界の間でもあるお話しで,弁護士の業界からすると,司法書士の業務が「非弁行為」(弁護士じゃなければすることができない業務を司法書士がやっている)にあたる,ということで問題視することがあります。

有名なところだと,過払金請求訴訟について,どの範囲までなら司法書士が受任できるか,という問題は,結構長い間,弁護士の業界と司法書士の業界とで見解が対立していて,裁判所の判断が出るまでは司法書士側は受任するべきかどうか頭を悩ませることが少なくありませんでした。

なにが言いたいかというと,これらの問題って,それぞれの資格ごとに,自分達の資格を守りたいと思って対立してるけど,そういうのって相談する方々からすると迷惑以外の何物でもないってことです。

だって,うまくいけば過払金が出るかもしれないけど,とにかく借金で困ってる方が,司法書士のところに相談に行ったら,「あ~金額的にウチでは受けられませんね,弁護士に相談に行ってください」と追い返されたり,もっとひどい時だと,いったん司法書士に依頼したのに,「ちゃんと計算してみたらウチでは受けられないので」って言われて弁護士にまわされて時間がかかる,とか,そういうことになってしまうということですから。

登記申請でも,これについては公認会計士に頼んでもOKだけど,あれについては司法書士でないとダメ,となるわけで,そのリスクとか,それぞれの専門家の業務範囲について正確な知識を持たなくてはならない負担を依頼する人に負わせるというのはどうなんだろうな,と思います。

結局私は,司法書士の登録もしている以上は,「だから最初から登記申請は司法書士に依頼してくださいね」って書くのが正解なんでしょうね。

債権法改正 請負

1 請負契約の変更点
  今回は,債権法の変更(やっぱり弁護士なので「改正」とは書きたくない。)のうち,請負契約について書きます。
  請負をはじめとした有償契約については,売買の規定を準用することになっており(この点については変更なし。第559条),請負人の責任については,債務不履行一般の原則規定が適用されることになります。
  従来の瑕疵担保責任(変更後の契約不適合責任)についても,売買契約の規定が準用されることになるため,現行民法の,請負契約特有の瑕疵担保責任の規定は大幅に削除されることになります。
  また,仕事が完成せずに終了した場合の報酬請求に関する規定として,第634条が新設され,最判昭和56年2月17日などの判例法理が明文化されました。
  以下,瑕疵担保責任から順に変更点をみてみます。
2 担保責任について
  現行民法の第634条が削除され,追完請求等は,売買に関する第562条等が準用されることになりました。
  現行民法の第635条も削除され,契約の解除は第541条及び542条の規定に従うことになりました。
  これによって,例えば,仕事の目的物が建物であったとしても,重大な瑕疵があり,契約の目的を達することができず,追完もできないような場合は,請負契約を解除できることになりました。
  さらに,現行民法第638条も削除され,建物の担保責任が引渡しから5年間存続したり,石造等の工作物については10年存続する,という規定がなくなりました。
  その代わりに,変更後の第637条によって,担保責任の期間制限が,現行法の,引渡しから1年以内の請求(または解除)を要するとの規定から,注文者が契約の不適合を知ってから1年以内の通知を要するとの規定に改められました。
3 中途終了の場合の報酬請求権について
  新設の第634条で,請負人が既にした仕事の結果が可分で,仕事完成が不能になった事由が注文者の責に帰することができない事由である場合や,仕事完成前に解除されたような場合は,可分な部分の給付で注文者が利益を受けるときは,その部分を完成とみなすと規定されました。
  これも,最判昭和56年2月17日で確認された判例法理の明文化です。
  この場合に,請負人の債務不履行があるような場合は,別途債務不履行の問題が生じますが,報酬請求権は発生することになります。
  また,注文者の責に帰するべき事由によって仕事完成が不能になった場合には,請負人は報酬の全額が請求できるという最判昭和52年2月22日が維持されると解されています。
  請負については以上です。

債権法改正 賃貸借④

1 賃貸人の地位の留保
  前回に続いて,債権法変更(「改正」とはやっぱり言いたくない。弁護士なので)のうち,賃貸借契約の規定を確認します。
  前回,変更後の第605条の2のうち,2項以外の,賃貸人の地位の移転に関しての規定を確認しました。
  今回は,2項の,賃貸人の地位の留保について確認します。
  前回確認したように,賃貸借の目的物件の所有権が移転する場合は,賃借人が賃借権について対抗要件を備えていれば,賃貸人の地位が当然に移転するのが原則です。
  ただし,2項により,不動産の譲渡人と譲受人が,賃貸人の地位を譲渡人にそのまま留めておく旨の合意をしたときは,賃貸人の地位は,譲受人には移転しないことになります。
  ここは,最判平成11年3月25日で否定された結論と逆の内容が明文化されています。
  条文で規定されているのはここまでです。
  賃貸人の地位が留保された結果,賃貸目的物の新所有者である譲受人が,賃貸人の地位を留保した譲渡人に対して賃貸目的物を賃貸し,譲渡人が賃借人に対してさらに目的物を賃貸するという,転貸借の関係が成立することになります。
  そこで,転貸借関係を規律する変更後の民法第613条が,この場合にも適用されるのかが問題となります。
  第613条3項本文は次のような規定です。
  「賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には,賃貸人は,賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。」
  一応,賃貸人の地位の留保によって生じた転貸借関係の転借人については,その地位は第605条の2第3項などで保護されているので,この第613条3項の適用は否定される,というのが有力説のようですが,結論としては,「今後の解釈に委ねる」とのことらしいです。
  なぜこういう風に変更されたのかもよく分からないんですが,どうせ民法をここまでいじくるなら,この辺についてもちゃんと定めておいてもらえればいいんですけども,もう施行時期まであと少しなので,まあどちらでもいいです。
2 合意による賃貸人の地位の移転
  今までは,賃貸目的物の所有権の移転により,当然に賃貸人の地位が移転するという,民法605条の2の規定を確認しましたが,民法の変更により,賃借人が賃借権の対抗要件を備えていないような場合にも,賃貸人の地位の移転は,合意によっても行うことができることが明文化されました。
  この部分は,最判昭和46年4月23日で確認された判例法理の明文化です。
  この辺で,賃貸借についての確認は終わります。

債権法改正 賃貸借③

1 判例法理の明文化とやらについて
  今回は,債権法の変更(やっぱり「改正」とは絶対に書きたくない)のうち,賃貸借の規定で,「判例法理の明文化」といわれる規定について引き続き確認していきます。
  前回も書きましたが,今回触れる,賃貸人の地位の移転についての判例は,弁護士にとっては条文で規定されているのと同じくらい有名な判例法理ではありますが,せっかく法律を変更するのであれば,条文で規定してもらっても別に構いません。ただ,今までの判例で確立された部分については条文にしたけど,結局判例でも明らかになっていない部分は今後の解釈に委ねる,という形になっているので,どうせならその部分も条文にしてもらって良かったんですけどね,とは思います。
  愚痴はともかく,賃貸人の地位の移転についての変更後の民法の規定について確認します。
2 賃貸人の地位の移転
  新設の第605条の2の1項では,賃借人が賃貸借についての対抗要件(賃借権の登記など)を備えているときに,賃貸物件について所有権の移転(いわゆるオーナーチェンジ)があったら,賃貸人の地位も,賃貸物件の新所有者に移転する,ということが規定されました。
  大判大正10年5月30日,最判昭和39年8月28日などの判例法理を明文化したものです。
  賃貸人の地位を移転させる,というのは,契約上の地位の移転ですから,もしこの規定がなければ,変更後の民法においては,本来であれば,第539条の2が規定するように,契約上の地位を譲渡する者,譲り受ける者,契約当事者の一方の三者で合意しなければならないところですが,賃貸人の貸す債務というのは,誰が履行してもあまり変わりがないので新所有者に履行させればよいという判断で,賃貸借の場合には,目的物の所有権移転によって当然に賃貸人の地位が移転する(賃借人の承諾が不要)ということになっています。
  そして,同条2項をいったんとばして第3項では,賃貸人の地位の移転を賃借人に対抗するには,目的物件の所有権の移転の登記が必要であるという,最判昭和49年3月19日で確認された判例法理が明文化されています。
  地位の移転に際しては賃借人の承諾は不要といっても,賃借人も,いつからだれに賃料を支払えばよいか分からなくなっては困るので,新賃貸人が賃借人に賃料を請求するような場合は,賃借人が認めるのでなければ,自分に所有権が移転したことを登記で客観的に分かるようにしておかなればならないという規定です。
  そして,同条4項では,費用償還請求権や敷金返還請求権も新賃貸人に引き継がれるという,最判昭和46年2月19日,最判昭和44年7月17日の法理が明文化されています。
  次回は,今回とばした3項と,第605条の3を確認します。

債権法改正 賃貸借②

1 賃貸借についての変更の概要
  前回から民法の債権法の変更(「改正」とは意地でも言わない)について書いてますが,今回は,まず,どのような変更があったのか,ザっとみてみます。
  まず,弁護士にはなじみのある,現行民法下での判例理論を明文化した規定といえるのは,第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了),第605条(不動産賃貸借の対抗力),第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)第605条の3(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転),第605条の4(不動産の賃貸人による妨害の停止の請求等),第613条(転貸の効果)3項,第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了),第621条(賃借人の原状回復義務),第622条の2(第4款 敷金)といったあたりです。
  次に,第606条(賃貸人による修繕等)の1項で規定される賃貸人の修繕義務の範囲や,第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)で規定される賃料減額につき,請求を待たず当然に減額されるとの変更,第602条(短期賃貸借)の規定からの「処分につき行為能力の制限を受けた者」の部分の削除など,従来から当然と思われていたことを確認する変更や,従来不合理と思われていた規定の削除・変更などがあります。
  また,賃貸借の存続期間の上限については,現行民法の20年から,50年に変更されました(第604条)。
  従来から,建物所有目的の土地賃貸借契約においては,借地借家法で20年を超える期間を存続期間とすることが認められていましたが,重機やプラントなど,借地借家法が適用されない場面で長期の賃貸借の必要があるということで,今回変更されることになりました。
  というわけで,以下,「判例法理が明確化された」といわれる規定についてみていきます。
2 変更後民法第616条の2について
  まず簡単なところからいくと,変更後の民法第616条の2は,賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了について規定しています。
  現行民法では,賃貸借の目的物の全部が滅失した場合に,賃貸借契約自体がどうなるのか,明文の規定が存在しませんでした。
  立法担当者は,当然終了するもので条文で規定するまでもないと考えたのでしょうか。
  それでもやっぱり規定がないと争いにはなるわけで,判例(最判昭和42年6月22日,最判昭和32年12月3日)で確認されたとおりの条文が今回新設されました。
  次回は,その他の判例法理の明文化といわれる規定を確認していきます。

債権法改正 賃貸借①

1 債権法改正について
  最近は相続法改正の方が話題に上ることが多くなりましたが,いよいよ来年の4月1日から(一部を除き)民法の債権法に関する改正法が施行されます。
  大部分が現行民法の下での裁判実務の運用や,判例を明文化したものだ,みたいに言われることもありますが,結構いろいろな部分が改正(かどうかは良く分か
りませんけど変更)されています。
  過失責任から契約責任に全体の発想が変更されていたり,なかなか変更に対応するのは大変なので,自分のためにもこれから何回か,債権法改正について書いて
みたいと思います。
  民法が使いこなせない弁護士というのはあり得ないので,改正か改悪かはよく分かりませんが,変更に対応しないという選択肢はありません。
  とにかく変更点を確認していきたいと思います。
  変更部分は多岐にわたるので,とにかく自分が注目したところからランダムに触れてみたいと思います。
  まずは,賃貸借契約から見ていきたいと思います。
2 賃貸借契約について
  改正民法では,賃貸借は債権各論のうち第7節からスタートします。
  条文でいうと第601条からです。
  変更があった条文は,細かい表現の変更も含めると,第601条(賃貸借),第602条(短期賃貸借),第604条(賃貸借の存続期間),第605条(不動
 産賃貸借の対抗力),第606条(賃貸人による修繕等),第609条(減収による賃料の減額請求),第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等),
 第613条(転貸の効果),第616条(賃借人による使用及び収益),第619条(賃貸借の更新の推定等),第620条(賃貸借の解除の効力),第622条(使用貸借の規定の準用)です。
  新設された条文は,第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転),第605条の3(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転),第605条の4(不動
 産の賃借人による妨害の停止の請求等),第607条の2(賃借人による修繕),第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了),第621条(賃借
 人の原状回復義務),第622条の2(第4款 敷金)です。
  要するに,賃貸借の規定のほとんどが,なんらかの形で変更されており,また,かなりの数の新設条文が存在します。
  しかし,賃貸借に関しては,現行民法から大きく様変わりしたわけではなく,判例の解釈が明文化されたものや,債権法の他の部分の変更に合わせて変更になっ
 た部分がかなりあります。
  次回以降で,賃貸借契約についての変更点を簡単にみてみたいと思います。

相続で不動産を取得した場合の名義変更について

不動産の名義変更とは
不動産の名義変更とは,不動産登記簿の権利部の甲区に記録される,不動産の所有者を子などの相続人に変更することをいいます。
不動産の所有権自体は,親が亡くなり,相続が発生した時点で相続人の共有となり,その後,遺産分割協議等によって相続人の間での持分が決まると,その取り決めどおりに移転することになりますが,これを登記しなければ,当事者以外の第三者に対して,権利の移転を主張できない(対抗できない)ため,相続人がさらに不動産を売却したり,不動産に抵当権を設定することが難しくなります。
したがって,親の不動産を相続によって取得した場合は,速やかに不動産の名義変更を行う必要があります。

亡くなった親の不動産の名義変更に必要な書類

親の不動産の名義変更に必要な書類には,①相続による所有権の移転登記申請に必ず必要な書類と,②相続にともない,遺産分割や相続放棄がされたなど,法定相続分と異なる所有権(持分)移転登記申請をする場合に,それぞれのケースごとに必要となる書類があります。
①の書類としては,まず,「相続を証する市区町村長その他の公務員が職務上作成した情報」が必要になります。
代表的なものは,戸籍謄本です。
戸籍謄本には,親の死亡の年月日が記載され,また配偶者,子,直系尊属等,亡くなった親の相続関係(身分関係)が記載されています。
実際には,親の死亡時の戸籍のみでなく,親の出生時から現在までの戸籍(除籍)の謄本が必要になる場合が多いので,親の戸籍の収集は,弁護士や司法書士などの専門家に依頼しなければ困難であったり手間がかかる場合が多いです。
また,戸籍に記載された親の本籍と,登記簿上の親の住所が異なるときは,親の住民票の除票の写しを,同一性の確認のため提出することが必要になります。
さらに,名義を変更する相続人の住民票の提出も必要です。
②の書類としては,例えば,遺言書によって法定相続分と異なる相続分が指定された場合は,遺言書の提出が必要となります。
遺言書が自筆証書遺言である場合は,検認手続がされたことの証明も必要です。
また,遺産分割協議がされた場合は,登記申請をする相続人以外の相続人全員の実印での押印がされた遺産分割協議書と,押印した相続人の印鑑証明書の提出が必要となります。

亡くなった親の不動産の名義変更の手続き
名義変更,すなわち相続を原因とする所有権の移転登記の申請をするには,登記申請書と上記2の添付書類とを,法務局の登記所に提出する必要があります(オンラインでの申請も可能です)。
申請に際しては,民法や不動産登記法などの諸法令や,実際のケースごとに登記所がどのような運用を行っているかの正確な知識が必要になりますので,弁護士や司法司法書士に依頼して名義変更されることをお勧めします。

『勝訴』と書いてある白いビラビラについて

 世間で注目を集める事件の判決が出たときに,よくニュースで見かける『勝訴』って書いたあの白いビラビラ。
 選ばれし者だけが持つことを許されるあのビラビラ。
 私は残念ながら弁護士になってからまだあのビラビラを持つ大役を仰せつかったことはないのですが,あのビラビラを掲げる際に,なんかルールってあるのでしょうか?
 ニュース等を見ている限り,皆さん一定のルールに従って掲げていらっしゃるようですし,ビラビラの形とかも決まっているようにも見えます。
 文言も『勝訴』『一部勝訴』『不当判決』とか決まってるようです。
 これって,弁護士業界の慣習にとどまるものなのか,なにか規則等できちんと定められているのか,ちょっと調べてみました。
 
 まず,弁護士業界的には,あれは『ビラビラ』ではなく,『ハタ』と呼んでいるようです。
 なんと,民事用,刑事用,行政事件用と用意してあって,日弁連からレンタルで借りるのが通常だそうです。

 そして,ありました,裁判所的には,あのハタのことは,『判決等即報用手持幡(はんけつとうそくほうようてもちばた)』と呼ぶようです。
 
 ニュース等で見ていると,判決等即報用手持幡(以下,「あのハタ」といいます。だれも『判決等即報用手持幡』って呼んでるの聞いたことがないので。)を持った弁護士は,ダダダーッと走って裁判所の外に行ってあのハタをビラッと広げてますが,あれも裁判所のルールがあるためらしいです。

 『裁判所の庁舎等の管理に関する規程(昭和43年6月10日最高裁判所規程第4号,改正 昭和43年10月30日最高裁判所規程第6号)』の第12条に「退去命令」という条項があり,第1項で,「管理者(注:最高裁判所にあっては最高裁判所事務総局経理局長,高等裁判所にあっては高等裁判所事務局長,地方裁判所(管轄区域内の簡易裁判所を含む)にあっては地方裁判所長,家庭裁判所にあっては家庭裁判所長とする,と規程第2条1項で定められています。)は,庁舎等において次の各号の一に該当する者に対し,その行為若しくは庁舎への立入りを禁止し,又は退去を命じなければならない。(以下略)」と定められています。
 その第9号に,「旗,のぼり,プラカード,拡声機その他これらに類する物を持ち込み,又は持ち込もうとする者」が挙げられています。
 第13条1項4号では,「撤去命令等」として,旗等の所有者又は所持者に対し,その撤去又は搬出を命じなければならない,と定められています。
 そして,規程の第2条4項では,「管理者は,必要があると認めるときは,当該裁判所の職員にその事務の一部を委任し,又は代理させることができる。」とあります。
 
 つまり,あのハタを持って裁判所の構内をプラプラしていると,係の人によって,裁判所からつまみだされてしまうということになります。

 ニュースになる事件とかで,目立ちたいからといって裁判所で手作りのハタを持って歩き回らないよう,お気をつけください・・・
 

続柄の表記

 弁護士は,相続の事件で書面を作成するときは,結婚している夫婦の間に生まれた二番目の男の子のことを,「二男」と表記します。
 すると,お客様にたまにご指摘を受けます。
 「せんせい,間違ってますよ。『次男』ですよね」って。
 
 どちらが正解なんでしょうか?
 名古屋と東京でルールが違ったりするのでしょうか?

 実は,使用する場面においては「二男」の方が正しい(とされる)ことがあります。
 例えば,役所とか裁判所とか,公の場面で続柄を表記する場合は,「二男」と表記します。
 その理由は,戸籍の記載において「二男」と表記されるから,ということになります。
 戸籍法施行規則に「附録第六号 戸籍の記載のひな形(第三十三条関係)」というものがあり,この中で,「長男」「長女」「二男」「二女」という表記があり,これが根拠となるようです。
 
 ちなみに,日本新聞協会では「次男」という表記を使用しているということで,ニュースなどでは,「次男」の方がなじみがあると思います。
 というか,これは新聞等で「次男」が使用される理由にもなっているようですが,「二男」って,普通に読むと「になん」ですよね。「二」という漢字には,「ジ」という読み方はなく,常用漢字表にも記載されていません。

 ・・・と,ここまでであれば,「へ~,戸籍とかに関しては,日常とは違う漢字を使うんですね~」と,なんか豆知識ひとつ増えたな,くらいの感想で終われそうなんですが,個人的には少し厄介だな~と感じることがあります。
 
 相続に関する法律的な文書には「二男」「二女」と使用する,としたときに,例えば,遺言書を作成する場面をご想像ください。

 遺言書を作成するお父さんに,息子さんが3人いたとします。
 長男は家業を継いで頑張ってくれた,二男(次男?)は自分達夫婦の面倒をよくみてくれる,三男は東京の大学に行ったっきり,全く実家によりつかないし,あそこの嫁はなんか気にくわない・・・
 という状況で,お父さんが,長男と二男に,ご自分の財産のほとんどを相続させるような遺言書を『自筆で』作成されたとします。

 「不動産○○は長男に,預貯金△△は二男に~」というような内容の遺言書を作成し,これで自分に何かあっても安心・・・と思っていたら,その遺言書の内容を見た三男が,自分も財産が欲しい!と思った場合,こんなことにならなければいいなと思うんですが・・・

 「二男」の「二」に,一本横棒を入れると,簡単に「三男」になっちゃいますよね。
 もちろん,そうならないために,「二男山田次郎(平成〇年〇月〇日生)」というように,きちんと氏名と生年月日で特定すればこの危険は避けられますが,法律というか公的な文書で使用される表記の方が偽造されやすい表記というのも,なんか皮肉な感じがします。

世間とのズレ

 先日,名古屋でのご依頼者との打合せで,相手方の代理人弁護士が書面で用いた言葉遣いについて,「物言いが上から目線過ぎる」とご指摘を受けました。
 
あまり具体的に書くと問題があるので控えますが,その言葉自体は言葉の意味としても特に失礼な言葉ではありません。
 現在では日常会話で使用されることもないような言葉なので,語感だけで「なんか偉そう」と感じられることがある言葉ではあるかもしれません。
 ただ,私は正直,最初に文書を見た時はその言葉遣いにそれほど違和感を感じませんでした。
 というより,たぶん気に留めてませんでした。
 
自分が弁護士として相手方に文書を送る際には気をつけよう,と思いました。
 
 それはともかく,この例のみならず法曹界と世間の感覚がズレてるんじゃないか,と感じることは,言葉遣いの面に限っても多いです。
 私が昔よく感じていたのは,判決書を読んでいて,「こんな言葉,判決書以外で使っている人は見たことも聞いたこともない」という言葉が結構あることでした。
 
 「畢竟」「毫も認められない」「なかんずく」・・・多分普通は読み方すら分からない。
 
 「畢竟」は,「ひっきょう」と読みます。「畢」も「竟」も終わる,という意味で,あわせて「結局」「つまるところは」という意味です。

 「毫」というのは,「ごう」と読みます。細い毛のことです。
 「毫も認められない」は,「1ミリもない!絶対にない!」みたいな意味です。
  
 「なかんずく」は,「いろいろある中で,特に」「とりわけ」という意味です。
 「就中」と,漢字で書くとイメージが湧くかもしれません。
 
 昔はこういう言葉を判決書の中でよく見たんですが,最近はさすがに見かけません。
 でも結構最近まで見てた気がするので,いったいいつ頃まで使用されていたのか代表的な判例検索ソフトで,ちょっと簡単に調べてみました。
 
 まず「畢竟」から・・・さすがに平成二桁になったら,もう使われてないよねーと検索してみると・・・
 平成30年2月7日の地裁の裁判例で使われてました・・・!
 その他にも,地裁・高裁だと現在でも絶賛使用中でした。
 
 ちょっと最高裁の判例に限定して調べ直してみます。
 最高裁では,平成9年,10年くらいまでは普通に使われていますが,平成20年に1件,検索がヒットするのみで最近は使用されていません。

 次に「毫も」。
 同じく最高裁に限定して調べてみます。
 こちらも平成15年が最新で,それ以降は使用がヒットしません。
 刑事裁判では割と最近でも使用されていました。
 
 最後,「なかんずく」です。
 これは平成23年の判決で使用されています。

 こんな感じで,自分の思っていたより最近まで,判決書では難しい言葉が使われていました。

親族と姻族について②

 前回はクイズを出しました。
 もう一度事例を掲載します。

  事例1
  一郎さんの妻が桃子さん,桃子さんの妹が梅子さん,梅子さんの夫が二郎さんです。
   この場合,一郎さんと二郎さんは「親族」でしょうか?

 答えは,「親族でない」です。
 
 前回,親族について,民法は,「3親等内の姻族」について,親族と定めているとお話ししました。
  そして,姻族とは,①配偶者の血族と②血族の配偶者をいい,今回はそのうち①が関係する事例でした。
  事例1に沿って考えると,一郎さんからみて,奥さん(配偶者)である桃子さんの血族である梅子さんは,姻族にあたります。
  しかし,梅子さんの配偶者である二郎さんは,桃子さんとは血縁関係がないので,桃子さんの血族にはあたりません。また,二郎さんは,当然,梅子さんの血族でもありません。
  したがって,一郎さんからみて,「配偶者の血族の配偶者」に過ぎない二郎さんは,民法上の親族にはあたらない,ということになります。
  そのため,親族間に適用される法律上のルール(例えば,家庭裁判所は,特別の事情があるときは,3親等内の親族にも扶養義務を負わせることができる:民法877条2項)は,一郎さんと二郎さんの間には適用されません。
  
 さて。
  ここまで,長々と「親族」や「姻族」についてのお話をしたのは,法律上「姻族」とか「親族」にあたるかの判定は,弁護士や法律に関わる人であればまだしも,そうでない方にとっては,ぱっと見で分かりやすいものでは必ずしもない,ということをお分かりいただきたかったからです。

  今までご確認いただいたように,「姻族」にあたるかどうかは,ちょっと立ち止まって定義にあてはめて考えてみたくなるようなものです。
  つまり,前回お話しした「配偶者」や「血族」ほど,だれが見ても一目で判断がつくものではないといえます。

  しかし。
  無いんです「姻族」の定義が。
  民法には。
 
  「民法〇〇条(姻族の範囲)
   次に掲げる者は,姻族とする。
   1 配偶者の血族
   2 血族の配偶者」
  みたいな条文があっても良さそうなものなのに。

  何回民法を見返しても,ありません。

  そこで,私は,そもそも「姻族」って一体どこで定義されているんだろう?
 と不思議に思ったため,「姻族」の定義が何かの法律でされているのか,されているとしたらどの法律なのか,について調べてみようと思い立ったのでした。
  
  とりあえず,いろいろ検索してみたんですが,なかなか思うような結果には行きあたりませんでした。
  これはもう少し調べてみる必要があるかもしれませんので,また時間のある時に名古屋の図書館を漁って結果をご報告します。

親族と姻族について①

 親族法・相続法の分野では,家族関係を定義する用語として,「血族」「姻族」「親族」といった言葉が用いられます。
 日常的には,親戚一同を広く表現する言葉として「親族」という言葉が用いられることがありますが,弁護士が用いる法律用語としてはきちんと定義されています。
 法律的には,「親族」とは,次のように定義されています。

 民法725条(親族の範囲)
 次に掲げる者は,親族とする。
 1 6親等内の血族
 2 配偶者
 3 3親等内の姻族

 ここで,次に,「血族」とは何か,「3親等」とはどの範囲か,「姻族」とは何か,ということが問題となりますが,親等とは,親族間の世代数のことであり,これは民法で以下のように定められています。

 民法726条
 1 親等は,親族間の世代数を数えて,これを定める。
 2 傍系親族の親等を定めるには,その一人又はその配偶者から同一の祖先にさかのぼり,その祖先から他の一人に下るまでの世代数による。

 第2項がやや分かりにくいですが,例えば,自分の兄弟が何親等にあたるかを数えるには,自分からスタートして,同一の祖先である父母に至るところで一世代さかのぼり,そこから兄弟に至るところで一世代下ることになるので,自分からみて兄弟は2親等,ということになります。

 このような次第で,民法上,「親族」や「親等」については定義されているものの,そもそも「配偶者」,「血族」,「姻族」といった用語については,民法では直接的には定義されていません。
 配偶者や血族については,日常用語のイメージどおり,婚姻関係にある相手方を配偶者と呼び,血のつながりのある者を血族と呼ぶという理解で問題ありません。
 しかし,「姻族」って,聞いただけで自分にとってだれが姻族なのか,すぐに判断がつく方はあまり多くないのではないでしょうか。
 「姻族」とは,婚姻関係によって生じる親族関係であり,①配偶者の血族と②血族の配偶者の2種類が生じます。
 こう書くと単純そうなのですが,姻族かどうかの判定は,分かっていないとちょっと混乱します。

 試しにクイズです。
 ①の配偶者の血族が姻族,という点に関連して,次の事例について考えてみてください。
 事例1
  一郎さんの妻が桃子さん,桃子さんの妹が梅子さん,梅子さんの夫が二郎さんです。
  この場合,一郎さんと二郎さんは「親族」でしょうか?
 
 日常生活では,事例1の二郎さんが一郎さんのことを「おにいさん」と呼んだりしますから,「親族」かも,と思えたりもしますが(と書くと答えを書いたようなものですが),答えは次回に書きます。

和解という知恵

弁護士になる前は,訴訟で勝訴できる弁護士みたいなものに漠然と憧れを抱いたりしていたものですが,
実は紛争を訴訟に持ち込まないで解決する方が,依頼者の方の様々なご負担を考えても,一番良い方法なのでは
ないかと思うようになりました。

そんな時に,廣田尚久先生の,『和解という知恵』(講談社現代新書)という本に出会いました。

廣田先生は,川崎製鉄で勤務された後に弁護士登録され,九州大学法学部や大学院でも
紛争解決についてご講義されたご経歴をお持ちの先生です。

和解というものについて,訴訟との対比をすることでその機能と効用を正面から捉え,
和解を効果的に使うことで紛争を解決することを研究されており,その成果が一部
あらわされているのが『和解という知恵』というご著書です。

その中では,訴訟と対比した場合の和解の特徴として,以下のようなものが挙げられています。

1 訴訟においては,勝訴した側が100をとり,敗訴した側が0となる。
  これは,仮に勝訴した側の権利の重みが51%で,敗訴した側の権利の重みが
  49%だった場合でも変わらない。
  一方,和解においては,お互いの権利の重みに応じた解決が実現できる可能性がある。

2 訴訟においては,要件事実論に従い,因果律に従ったかたちで紛争が解決される。
  一方,和解においては,因果律にはこだわらず,共時性の原理も使う。

ほかにもいろいろと比較はされていますが,私が改めてハッとさせられたのは以上の二つでした。

特に,問題を解決する際に,法律構成を気にし過ぎる余り,因果関係はなくても,
偶然にみえる複数の現象の意味を探ると,そこに解決の糸口があるかも
しれないということを意識して事案をみることが最近できなくなっていないか,と
考え直すきっかけになりました。

さらに,『和解という知恵』によると,廣田先生が実際に手掛けられた事件等の例から,
和解をやりとげる方法が説明されます。

その中には,普段から漠然と考えてはいても,意識して整理はしていなかったものや,
なかなか一朝一夕には真似できないものもいろいろ説明されていましたが,自分が
ぼんやり考えていただけのことをこんなに突き詰めて整理されている方がいらっしゃることが
分かり,それだけでも大変刺激になりました。

和解に対して抱いている,なんとなくぼんやりしたつかみどころのないイメージが消えて,
積極的に和解をいろいろな場面で試すことができるきっかけになるので,実務家の方には
お勧めですし,さらに,法律家でなくとも,紛争がどのように解決されるのかを理解したい方には
ご一読をお勧めします。

詐欺罪につき実行の着手があるとされた事例-最判平成30年3月22日

 事案は,被告人が,被害者から現金をだまし取ろうと考えた氏名不詳者らと共謀したうえで,氏名不詳者において,被害者に対して警察官を名乗る数回の電話により,電話相手が警察官であり,その指示に従わなければならない旨誤信させて現金を払い戻させた後,被告人において,被害者から現金の交付を受けようとしたが,被害者方付近で警戒中の警察官に発見されて逮捕されたため,その目的を遂げなかったというものです。
 財物の交付自体を求める行為は行われていないことから,詐欺罪の実行行為である「人を欺く行為」自体への着手がいまだ認められないため,被告人側の弁護士が詐欺未遂罪も成立しないと争ったものでした。

 判旨は,おおよそ以下のとおりの内容です。

 氏名不詳者は,被害者に対し,1回目の電話で「昨日,駅のところで,不審な男を捕まえたんですが,その犯人が被害者の名前を言っています。」「昨日,詐欺の被害にあっていないですか。」「口座にはまだどのくらいの金額が残っているんですか。」「銀行に今すぐ行って全部下ろした方がいいですよ。」など言い,その後,2回目の電話で「僕,向かいますから。」「2時前には到着できるよう僕の方で態勢整えますので。」などと言っており,これらの行為は,被害者をして,本件嘘が真実であると誤信させた上で,後に被害者宅を訪問して警察官を装って現金の交付を求める予定であった被告人に対して現金を交付させるための計画の一環として行われたものであり,本件嘘の内容は,その犯行計画上,被害者が現金を交付するか否かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであったと認められる。
 そして,このような計画の下において述べられた本件嘘には,被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれており,既に100万円の詐欺被害に遭っていた被害者に対し,本件嘘を真実であると誤信させることは,被害者において,間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえ,このような事実関係の下においては,本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において,被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,詐欺罪の実行の着手があったと認められる。

 また,本判決には,いわゆるクロロホルム事件(最決平成16年3月22日)を引用し,『犯罪の実行行為自体ではなくとも,実行行為に密接であって,被害を生じさせる客観的な危険性が認められる行為に着手することによっても未遂罪は成立しうる。したがって,財物の交付を求める行為が行われていないことは,詐欺未遂罪が成立しないということを必ずしも意味するものではない。未遂罪の成否において問題となるのは,実行行為に「密接」で「客観的な危険性」が認められる行為への着手が認められるかであり,この判断に当たっては「密接」性と「客観的な危険性」とを,相互に関連させながらも,それらが重畳的に求められている趣旨を踏まえて検討することが必要である。特に重要なのは,無限定な未遂処罰を避け,処罰範囲を適切かつ明確に画定するという観点から,上記「密接」性を判断することである。』とした上で,本件では,被害者宅を訪問した被告人が現金を交付させることが計画され,その時点で「人を欺く行為」が予定されているものの,警察官の訪問を予告する2回目の電話はその行為に「密接」なものであり,また,1回目の電話と一連のものとして行われた2回目の電話の時点で,被害者が一連の嘘により欺かれて現金を交付する危険性が著しく高まったといえるから,2回目の電話によって,詐欺未遂罪の成立が肯定できるとする,山口厚裁判官の補足意見が付されています。

 従来からの裁判例と山口裁判官のご見解に沿った判断であるといえます。