家督相続の発生原因としての隠居

今日は弁護士業務の合間に,遺産分割協議の前提として,相続人確定のため戸籍を確認していました(これも弁護士業務でしょうけど)。
家督相続が出てきたので,いい機会なのでこのブログも家督相続にまつわる何かで書いてみようと思いました。
が,名古屋で何人の方に見ていただけるんだっていう内容も不適切なので,ほどよく興味を持っていただける内容で書いてみます。

家督相続とは,簡単にいうと,戦前の家制度の下で認められていた,戸主の法律上の地位を包括的に承継することです。

「家」制度ですから,家を継ぐことが第一であり,家督相続の発生原因は,戸主の死亡だけでなく,戸主がその家の統率者として適当でなくなった場合を含みます。

例えば,戸主が生前に「隠居」した場合も,家督相続が発生します。
ここでいう「隠居」とは,「縁側でのんびりお茶を飲んで暮らし始めること」とかではなく,きちんと旧民法で定められた,家督相続の発生原因としての「隠居」のことをいいます。

法律上の「隠居」とは,戸主が,その家督相続人に戸主の地位を承継させるために,自ら戸主権を放棄する単独行為をいいます。

ここで戸主権というのは,家の統率者である戸主に法律が与えた権利と義務の総称です。

明治政府の中央集権体制は,天皇を頂点として,その下に政府→府県→区長→戸長→戸主という形で編成されており,戸主というのは,この明治政府の中央統制の末端に組み入れられていました。

したがって,戸主は,「家」という組織を統制するためにものすごく大きな権限を与えられ,また義務を課されていました。これを戸主権といい,戸主の地位自体を「家督」ともいいました。

「隠居」は,このような戸主権を,戸主が生前に放棄し,家督相続人に承継させる行為をいいます。

旧民法では「隠居」には「普通隠居」と「特別隠居」がありました。
普通隠居の要件は,①満60歳以上となること及び②完全の能力を有する家督相続人が相続の単純承認をすること(旧民法752条)です。

60歳以上になって,家を統率する権利義務から解放されるということで,結局,それ以後は縁側でのんびりお茶を飲むこともできるようになるので,「そろそろワシも隠居しようかの」みたいな台詞は,内容としてあまり間違って使われてるわけではありません。