登記申請手続の代理人

別に隠してたわけではないんですけど,実は私,司法書士の資格も持ってまして,最近司法書士会のお仕事もたまに手伝わせていただいています。

その中には,非司調査というものがありまして,要するに,「司法書士の資格のない人が,業として,登記申請手続の代理をやってないか調査する」というものです。

簡単にいうと,登記申請手続の代理業務を,対価をいただいて反復して行うことができるのは,基本的には司法書士だけなので(弁護士とか,会社設立登記における公認会計士など,他の法律で認められている場合は除きます),例えば,行政書士や税理士が,会社関係の登記申請を対価をいただいて行っている,ということになると,ちょっと待ってくださいよ~,ということになります。

調査の内容については守秘義務がありますので具体的にはいえないですけど,そもそもこのような調査を継続的に行なわなければならない状態であるということは,やっぱり行政書士の方や税理士の方による,(あくまで司法書士側から見て,ですが)疑わしい申請というのが一定程度ある,ということだと思います。

しかしこれはなかなか難しい問題で,ギリギリセーフ(アウト?)っぽいものも結構あるでしょうし,そもそも,司法書士会的には非司行為と認定する事例でも,行政書士の側では業務範囲内です,というものもあるかもしれません。

これは,実は弁護士業界と司法書士業界の間でもあるお話しで,弁護士の業界からすると,司法書士の業務が「非弁行為」(弁護士じゃなければすることができない業務を司法書士がやっている)にあたる,ということで問題視することがあります。

有名なところだと,過払金請求訴訟について,どの範囲までなら司法書士が受任できるか,という問題は,結構長い間,弁護士の業界と司法書士の業界とで見解が対立していて,裁判所の判断が出るまでは司法書士側は受任するべきかどうか頭を悩ませることが少なくありませんでした。

なにが言いたいかというと,これらの問題って,それぞれの資格ごとに,自分達の資格を守りたいと思って対立してるけど,そういうのって相談する方々からすると迷惑以外の何物でもないってことです。

だって,うまくいけば過払金が出るかもしれないけど,とにかく借金で困ってる方が,司法書士のところに相談に行ったら,「あ~金額的にウチでは受けられませんね,弁護士に相談に行ってください」と追い返されたり,もっとひどい時だと,いったん司法書士に依頼したのに,「ちゃんと計算してみたらウチでは受けられないので」って言われて弁護士にまわされて時間がかかる,とか,そういうことになってしまうということですから。

登記申請でも,これについては公認会計士に頼んでもOKだけど,あれについては司法書士でないとダメ,となるわけで,そのリスクとか,それぞれの専門家の業務範囲について正確な知識を持たなくてはならない負担を依頼する人に負わせるというのはどうなんだろうな,と思います。

結局私は,司法書士の登録もしている以上は,「だから最初から登記申請は司法書士に依頼してくださいね」って書くのが正解なんでしょうね。

債権法改正 請負

1 請負契約の変更点
  今回は,債権法の変更(やっぱり弁護士なので「改正」とは書きたくない。)のうち,請負契約について書きます。
  請負をはじめとした有償契約については,売買の規定を準用することになっており(この点については変更なし。第559条),請負人の責任については,債務不履行一般の原則規定が適用されることになります。
  従来の瑕疵担保責任(変更後の契約不適合責任)についても,売買契約の規定が準用されることになるため,現行民法の,請負契約特有の瑕疵担保責任の規定は大幅に削除されることになります。
  また,仕事が完成せずに終了した場合の報酬請求に関する規定として,第634条が新設され,最判昭和56年2月17日などの判例法理が明文化されました。
  以下,瑕疵担保責任から順に変更点をみてみます。
2 担保責任について
  現行民法の第634条が削除され,追完請求等は,売買に関する第562条等が準用されることになりました。
  現行民法の第635条も削除され,契約の解除は第541条及び542条の規定に従うことになりました。
  これによって,例えば,仕事の目的物が建物であったとしても,重大な瑕疵があり,契約の目的を達することができず,追完もできないような場合は,請負契約を解除できることになりました。
  さらに,現行民法第638条も削除され,建物の担保責任が引渡しから5年間存続したり,石造等の工作物については10年存続する,という規定がなくなりました。
  その代わりに,変更後の第637条によって,担保責任の期間制限が,現行法の,引渡しから1年以内の請求(または解除)を要するとの規定から,注文者が契約の不適合を知ってから1年以内の通知を要するとの規定に改められました。
3 中途終了の場合の報酬請求権について
  新設の第634条で,請負人が既にした仕事の結果が可分で,仕事完成が不能になった事由が注文者の責に帰することができない事由である場合や,仕事完成前に解除されたような場合は,可分な部分の給付で注文者が利益を受けるときは,その部分を完成とみなすと規定されました。
  これも,最判昭和56年2月17日で確認された判例法理の明文化です。
  この場合に,請負人の債務不履行があるような場合は,別途債務不履行の問題が生じますが,報酬請求権は発生することになります。
  また,注文者の責に帰するべき事由によって仕事完成が不能になった場合には,請負人は報酬の全額が請求できるという最判昭和52年2月22日が維持されると解されています。
  請負については以上です。

債権法改正 賃貸借④

1 賃貸人の地位の留保
  前回に続いて,債権法変更(「改正」とはやっぱり言いたくない。弁護士なので)のうち,賃貸借契約の規定を確認します。
  前回,変更後の第605条の2のうち,2項以外の,賃貸人の地位の移転に関しての規定を確認しました。
  今回は,2項の,賃貸人の地位の留保について確認します。
  前回確認したように,賃貸借の目的物件の所有権が移転する場合は,賃借人が賃借権について対抗要件を備えていれば,賃貸人の地位が当然に移転するのが原則です。
  ただし,2項により,不動産の譲渡人と譲受人が,賃貸人の地位を譲渡人にそのまま留めておく旨の合意をしたときは,賃貸人の地位は,譲受人には移転しないことになります。
  ここは,最判平成11年3月25日で否定された結論と逆の内容が明文化されています。
  条文で規定されているのはここまでです。
  賃貸人の地位が留保された結果,賃貸目的物の新所有者である譲受人が,賃貸人の地位を留保した譲渡人に対して賃貸目的物を賃貸し,譲渡人が賃借人に対してさらに目的物を賃貸するという,転貸借の関係が成立することになります。
  そこで,転貸借関係を規律する変更後の民法第613条が,この場合にも適用されるのかが問題となります。
  第613条3項本文は次のような規定です。
  「賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には,賃貸人は,賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。」
  一応,賃貸人の地位の留保によって生じた転貸借関係の転借人については,その地位は第605条の2第3項などで保護されているので,この第613条3項の適用は否定される,というのが有力説のようですが,結論としては,「今後の解釈に委ねる」とのことらしいです。
  なぜこういう風に変更されたのかもよく分からないんですが,どうせ民法をここまでいじくるなら,この辺についてもちゃんと定めておいてもらえればいいんですけども,もう施行時期まであと少しなので,まあどちらでもいいです。
2 合意による賃貸人の地位の移転
  今までは,賃貸目的物の所有権の移転により,当然に賃貸人の地位が移転するという,民法605条の2の規定を確認しましたが,民法の変更により,賃借人が賃借権の対抗要件を備えていないような場合にも,賃貸人の地位の移転は,合意によっても行うことができることが明文化されました。
  この部分は,最判昭和46年4月23日で確認された判例法理の明文化です。
  この辺で,賃貸借についての確認は終わります。

債権法改正 賃貸借③

1 判例法理の明文化とやらについて
  今回は,債権法の変更(やっぱり「改正」とは絶対に書きたくない)のうち,賃貸借の規定で,「判例法理の明文化」といわれる規定について引き続き確認していきます。
  前回も書きましたが,今回触れる,賃貸人の地位の移転についての判例は,弁護士にとっては条文で規定されているのと同じくらい有名な判例法理ではありますが,せっかく法律を変更するのであれば,条文で規定してもらっても別に構いません。ただ,今までの判例で確立された部分については条文にしたけど,結局判例でも明らかになっていない部分は今後の解釈に委ねる,という形になっているので,どうせならその部分も条文にしてもらって良かったんですけどね,とは思います。
  愚痴はともかく,賃貸人の地位の移転についての変更後の民法の規定について確認します。
2 賃貸人の地位の移転
  新設の第605条の2の1項では,賃借人が賃貸借についての対抗要件(賃借権の登記など)を備えているときに,賃貸物件について所有権の移転(いわゆるオーナーチェンジ)があったら,賃貸人の地位も,賃貸物件の新所有者に移転する,ということが規定されました。
  大判大正10年5月30日,最判昭和39年8月28日などの判例法理を明文化したものです。
  賃貸人の地位を移転させる,というのは,契約上の地位の移転ですから,もしこの規定がなければ,変更後の民法においては,本来であれば,第539条の2が規定するように,契約上の地位を譲渡する者,譲り受ける者,契約当事者の一方の三者で合意しなければならないところですが,賃貸人の貸す債務というのは,誰が履行してもあまり変わりがないので新所有者に履行させればよいという判断で,賃貸借の場合には,目的物の所有権移転によって当然に賃貸人の地位が移転する(賃借人の承諾が不要)ということになっています。
  そして,同条2項をいったんとばして第3項では,賃貸人の地位の移転を賃借人に対抗するには,目的物件の所有権の移転の登記が必要であるという,最判昭和49年3月19日で確認された判例法理が明文化されています。
  地位の移転に際しては賃借人の承諾は不要といっても,賃借人も,いつからだれに賃料を支払えばよいか分からなくなっては困るので,新賃貸人が賃借人に賃料を請求するような場合は,賃借人が認めるのでなければ,自分に所有権が移転したことを登記で客観的に分かるようにしておかなればならないという規定です。
  そして,同条4項では,費用償還請求権や敷金返還請求権も新賃貸人に引き継がれるという,最判昭和46年2月19日,最判昭和44年7月17日の法理が明文化されています。
  次回は,今回とばした3項と,第605条の3を確認します。

債権法改正 賃貸借②

1 賃貸借についての変更の概要
  前回から民法の債権法の変更(「改正」とは意地でも言わない)について書いてますが,今回は,まず,どのような変更があったのか,ザっとみてみます。
  まず,弁護士にはなじみのある,現行民法下での判例理論を明文化した規定といえるのは,第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了),第605条(不動産賃貸借の対抗力),第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)第605条の3(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転),第605条の4(不動産の賃貸人による妨害の停止の請求等),第613条(転貸の効果)3項,第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了),第621条(賃借人の原状回復義務),第622条の2(第4款 敷金)といったあたりです。
  次に,第606条(賃貸人による修繕等)の1項で規定される賃貸人の修繕義務の範囲や,第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)で規定される賃料減額につき,請求を待たず当然に減額されるとの変更,第602条(短期賃貸借)の規定からの「処分につき行為能力の制限を受けた者」の部分の削除など,従来から当然と思われていたことを確認する変更や,従来不合理と思われていた規定の削除・変更などがあります。
  また,賃貸借の存続期間の上限については,現行民法の20年から,50年に変更されました(第604条)。
  従来から,建物所有目的の土地賃貸借契約においては,借地借家法で20年を超える期間を存続期間とすることが認められていましたが,重機やプラントなど,借地借家法が適用されない場面で長期の賃貸借の必要があるということで,今回変更されることになりました。
  というわけで,以下,「判例法理が明確化された」といわれる規定についてみていきます。
2 変更後民法第616条の2について
  まず簡単なところからいくと,変更後の民法第616条の2は,賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了について規定しています。
  現行民法では,賃貸借の目的物の全部が滅失した場合に,賃貸借契約自体がどうなるのか,明文の規定が存在しませんでした。
  立法担当者は,当然終了するもので条文で規定するまでもないと考えたのでしょうか。
  それでもやっぱり規定がないと争いにはなるわけで,判例(最判昭和42年6月22日,最判昭和32年12月3日)で確認されたとおりの条文が今回新設されました。
  次回は,その他の判例法理の明文化といわれる規定を確認していきます。

債権法改正 賃貸借①

1 債権法改正について
  最近は相続法改正の方が話題に上ることが多くなりましたが,いよいよ来年の4月1日から(一部を除き)民法の債権法に関する改正法が施行されます。
  大部分が現行民法の下での裁判実務の運用や,判例を明文化したものだ,みたいに言われることもありますが,結構いろいろな部分が改正(かどうかは良く分か
りませんけど変更)されています。
  過失責任から契約責任に全体の発想が変更されていたり,なかなか変更に対応するのは大変なので,自分のためにもこれから何回か,債権法改正について書いて
みたいと思います。
  民法が使いこなせない弁護士というのはあり得ないので,改正か改悪かはよく分かりませんが,変更に対応しないという選択肢はありません。
  とにかく変更点を確認していきたいと思います。
  変更部分は多岐にわたるので,とにかく自分が注目したところからランダムに触れてみたいと思います。
  まずは,賃貸借契約から見ていきたいと思います。
2 賃貸借契約について
  改正民法では,賃貸借は債権各論のうち第7節からスタートします。
  条文でいうと第601条からです。
  変更があった条文は,細かい表現の変更も含めると,第601条(賃貸借),第602条(短期賃貸借),第604条(賃貸借の存続期間),第605条(不動
 産賃貸借の対抗力),第606条(賃貸人による修繕等),第609条(減収による賃料の減額請求),第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等),
 第613条(転貸の効果),第616条(賃借人による使用及び収益),第619条(賃貸借の更新の推定等),第620条(賃貸借の解除の効力),第622条(使用貸借の規定の準用)です。
  新設された条文は,第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転),第605条の3(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転),第605条の4(不動
 産の賃借人による妨害の停止の請求等),第607条の2(賃借人による修繕),第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了),第621条(賃借
 人の原状回復義務),第622条の2(第4款 敷金)です。
  要するに,賃貸借の規定のほとんどが,なんらかの形で変更されており,また,かなりの数の新設条文が存在します。
  しかし,賃貸借に関しては,現行民法から大きく様変わりしたわけではなく,判例の解釈が明文化されたものや,債権法の他の部分の変更に合わせて変更になっ
 た部分がかなりあります。
  次回以降で,賃貸借契約についての変更点を簡単にみてみたいと思います。

二次相続

二次相続とは
二次相続とは,父と母と子の家族で,父が最初に亡くなって,父の遺産を母と子が相続(一時相続)した後に,母がなくなって母の遺産を子が相続する,という場合の,二回目の相続のことをいいます。
このような二次相続が発生するケースにおいては,特に相続税の申告・納付の場面で,一次相続のみで納税額が少なくなることのみを考えて相続したことで,二次相続まで含めたトータルの納税額において,結果的に納税額が多額になってしまうような事態が起こり得ます。
そこで,二次相続まで踏まえた相続対策が必要になります。

配偶者の税額軽減の制度を一次相続で利用する場合の注意点
上記のように,父が死亡して一次相続が発生する場合,配偶者である母については,相続税の申告の際に,配偶者の税額軽減の制度を活用することが考えられます。
配偶者の税額軽減の制度を利用すると,配偶者(上記の例における母)については,相続税の課税価格が法定相続分を下回る場合には相続税は課税されず,また,課税価格が法定相続分を上回る場合でも,その額が1億6000万円以下の場合には相続税が課税されないことになります。
ただし,一次相続において配偶者の税額軽減制度を目一杯活用して相続税を少なくしても,二次相続で多額の相続税を納付することになると,結果として節税の効果が発揮されないこととなってしまいます。
このような事態が生じる要因としては,相続税の申告における基礎控除の額が,「3000万円+600万円×法定相続人の人数」という算定によってきまるため,法定相続人の人数が減る二次相続において相続税額が高くなることや,一次相続から二次相続までの間に財産の価値が上昇してしまい,結果として課税価格が高くなってしまうこと等があげられます。
したがって,一次相続の段階から他の特例の適用も考慮に入れて,二次相続が発生した場合を想定した納税額の試算を何通りかしてみたり,一次相続において,将来値上がりが予想される財産は子が取得するといった相続対策をすることが必要になってきます。

まとめ
上記のような納税額の試算や相続対策は,やはり税の専門家である税理士の関与は欠かせないでしょう。
また,これらの相続対策を実現するために,それぞれの相続の際に生じうる法律的な問題を検討したり,実際の相続の際の相続手続きを円滑に進めるには,弁護士の関与も不可欠です。
したがって,二次相続対策を行う場合は,通常の相続手続き以上に,弁護士と税理士の連携がとれている必要があります。
弁護士法人心では,グループ内の税理士法人と連携することで,相続手続きをトータルにサポートさせていただいておりますので,二次相続を踏まえた相続対策についてもまとめてご相談にのらせていただくことが可能です。

遺言書に条件をつける

負担付遺贈と条件付遺贈
遺言者が,遺言によって財産を譲り受ける受遺者に対して,財産を譲る代わりに一定の法的義務を負担させる内容の遺言を,負担付遺贈の遺言といいます。
受遺者は,遺贈の目的の価値を超えない限度においてのみ,負担した義務を履行しなければならないとされています(民法第1002条1号項)。
また,受遺者が負担を履行しない場合,相続人または遺言執行者は,相当の期間を定めて履行を催告することができ,それでも履行がないときは,家庭裁判所に遺言の取り消しを請求できます(民法第1027条,第1015条)。
ここでいう「負担」とは,法律上の義務をいい,法律上強制できないもの(財産を譲る代わりに甲さんと結婚しろ,といった内容)や,受遺者の意思に左右されない事項(乙さんに財産を譲る代わりに選挙で当選すること,といった内容)は「負担」にはあたらず,「条件」であるとされています。
「負担」が「条件」かは,その条項が「負担」であると解された場合は,負担の履行・不履行が遺贈の効力に直接影響するわけではないが,「条件」と解された場合には,条件の成就が遺贈の効力に影響するという差異があるため,「負担」か「条件」かの判断は当事者にとっては重要ですが,その判断の基準は,遺言者の意思解釈によるとするのが多数説です。
この多数説の中には,遺言者の意思が明確でない場合は,遺言の効力の早期確定のために,「負担」と解するべきであるという見解や,受遺者に義務を課することが妥当かどうかという見地から判断するべきとの見解があります。
「妻の面倒を見ること」は「負担」か「条件」か
妻の面倒を見ることを条件に財産を譲る内容の遺言を作成することはできますが,問題は,「妻の面倒を見ること」が「負担」か「条件」か,です。
この点,上記見解のうち,受遺者に義務を課することが妥当かどうかという見地から判断するべきとの見解からすると,受贈者に義務として妻の面倒を見ることを強制することは妥当でないから,負担でなく条件付きの遺贈であると解される可能性があります。
この条項が「条件」であるとすると,条件が成就しなければ遺贈自体が無効となります。
また,仮に「負担」と解されたとしても,遺贈の価額と釣り合う範囲での「妻の面倒を見る」というのがどの程度の行為なのかは解釈が難しいところです。
つまり,妻の面倒を見ることを条件に財産を譲る内容の遺言は,作ること自体はできるが,その解釈が難しく,仮に受遺者が妻の面倒を見ない場合には,「もめる」可能性のある遺言であるといえます。
このような遺言書を作成する場合は,事前に受遺者との話し合いが必要です。
弁護士などの専門家にご相談して作成するかどうか,作成するとしてどのような文言にするかを決めることを強くお勧めします。

遺言書の付言事項

遺言書の内容は原則として遺言書作成者の自由
遺言書は,例えば自筆証書遺言であれば,その全文と日付,氏名を遺言者が自署し,押印するなどの法律で要求される形式的用件を満たせば,その内容については原則として遺言者の自由であり,複数の相続人に対して,法定相続分と異なる財産を取得させる内容の遺言書を作成することも,また,遺留分の問題を置けば,一人の相続人に対して全ての財産を取得させる内容の遺言書を作成することもできます。
そのように自己の財産を死後に相続人等に分配したいというのが遺言者の意思であるなら,それを尊重するべきであるというのが民法の考え方であり,遺言者がそのように財産を分配したいと考える理由の記載は,法律上要求されていません。
遺留分に配慮してもトラブルは起き得る
しかし,上記のように,法定相続分と異なる内容の遺言書が存在する場合,遺された相続人のうち,法定相続分よりも少ない財産しか取得できない相続人は,どのように感じるでしょうか。
例えば,Aさんは既にご主人に先立たれた女性で,相続人は長男のBさんと二男のCさんの二人であるとします。
長男のBさんは,Aさんが亡くなるまでの数年間,入院していたAさんの看病を熱心にしていたのに対して,二男のCさんは自分も健康状態がすぐれず,遠隔地に住んでいたこともあり,あまりAさんのお見舞いにも行けなかったことから,Aさんは,よく面倒をみてくれたBさんに多くの財産を残すことを決め,「自分の全財産の4分の3をBに相続させ,4分の1をCに相続させる。」という内容の遺言書を作成し,死亡しました。
この場合,遺言書の内容自体は,遺留分にも配慮されており,法律的には特に問題ないものです。
しかし,Cさんとしては,自分があまりお見舞いに行けない事情は母であるAさんも理解してくれていたはずであり,遺言書の内容を見ても納得はできないこともあるでしょう。
そうすると,「母がこんな内容の遺言書を書くわけがない!」と考えたCさんによって,場合によっては遺言無効確認請求の訴訟が提起されるなど,Aさんの死後に,BさんとCさんの間で紛争が生じることもあり得ます。
付言事項を活用してトラブルを回避する
このような事態を防ぐために,遺言書の「付言事項」を活用することが考えられます。
遺言書には,法律的には効果はないものの,遺言者がこのような遺言書を作成した経緯や遺された人々へのメッセージなどを記載することができます。
法律上の効果が発生する遺言書の本体に付言するということで「付言事項」と呼ばれています。
この付言事項部分で,例えば上記の例であれば,よく看病をしてくれたBさんに対して感謝し,またCさんにも一定の配慮をしたこと等を記載し,遺言書の趣旨を理解してもらうようにするのです。
実際,名古屋で遺言書をめぐる紛争をたくさん見ていると,付言事項等で,少しでも遺言者の気持ちを書きのこしてもらえればと思う件は少なくありません。
遺言書作成にあたっては,ぜひ付言事項を活用して,トラブルにならない遺言書を作成するようにしてください。
ただし,遺言書の作成にあたって,付言事項を記載することを勧めるかどうかは,弁護士や公証人によっても異なりますので,遺言書の作成について相談される場合は,「付言事項としてこういうことも入れてもらいたい」とご提案されることをお勧めします。

相続で不動産を取得した場合の名義変更について

不動産の名義変更とは
不動産の名義変更とは,不動産登記簿の権利部の甲区に記録される,不動産の所有者を子などの相続人に変更することをいいます。
不動産の所有権自体は,親が亡くなり,相続が発生した時点で相続人の共有となり,その後,遺産分割協議等によって相続人の間での持分が決まると,その取り決めどおりに移転することになりますが,これを登記しなければ,当事者以外の第三者に対して,権利の移転を主張できない(対抗できない)ため,相続人がさらに不動産を売却したり,不動産に抵当権を設定することが難しくなります。
したがって,親の不動産を相続によって取得した場合は,速やかに不動産の名義変更を行う必要があります。

亡くなった親の不動産の名義変更に必要な書類

親の不動産の名義変更に必要な書類には,①相続による所有権の移転登記申請に必ず必要な書類と,②相続にともない,遺産分割や相続放棄がされたなど,法定相続分と異なる所有権(持分)移転登記申請をする場合に,それぞれのケースごとに必要となる書類があります。
①の書類としては,まず,「相続を証する市区町村長その他の公務員が職務上作成した情報」が必要になります。
代表的なものは,戸籍謄本です。
戸籍謄本には,親の死亡の年月日が記載され,また配偶者,子,直系尊属等,亡くなった親の相続関係(身分関係)が記載されています。
実際には,親の死亡時の戸籍のみでなく,親の出生時から現在までの戸籍(除籍)の謄本が必要になる場合が多いので,親の戸籍の収集は,弁護士や司法書士などの専門家に依頼しなければ困難であったり手間がかかる場合が多いです。
また,戸籍に記載された親の本籍と,登記簿上の親の住所が異なるときは,親の住民票の除票の写しを,同一性の確認のため提出することが必要になります。
さらに,名義を変更する相続人の住民票の提出も必要です。
②の書類としては,例えば,遺言書によって法定相続分と異なる相続分が指定された場合は,遺言書の提出が必要となります。
遺言書が自筆証書遺言である場合は,検認手続がされたことの証明も必要です。
また,遺産分割協議がされた場合は,登記申請をする相続人以外の相続人全員の実印での押印がされた遺産分割協議書と,押印した相続人の印鑑証明書の提出が必要となります。

亡くなった親の不動産の名義変更の手続き
名義変更,すなわち相続を原因とする所有権の移転登記の申請をするには,登記申請書と上記2の添付書類とを,法務局の登記所に提出する必要があります(オンラインでの申請も可能です)。
申請に際しては,民法や不動産登記法などの諸法令や,実際のケースごとに登記所がどのような運用を行っているかの正確な知識が必要になりますので,弁護士や司法司法書士に依頼して名義変更されることをお勧めします。

亡くなった方の預貯金の解約について

金融機関は,預金者が亡くなった場合,その事実を知った時点で,亡くなった方の名義の預貯金の口座を凍結します(口座振替も停止となります)。
その後,亡くなった親の預貯金を払い戻すには,相続人全員が払戻しに合意するか,遺言書や遺産分割協議などの結果,預貯金を取得することになった相続人等の全員が払戻しに合意して,預貯金の払戻しを請求することになります。
相続人全員の合意がない場合に,遺産分割協議をすることなく,各相続人が自分の法定相続分のみの払戻しを受けられるかについては,金融機関ごとに対応が異なります。
例えば,ゆうちょ銀行は,相続人全員の合意がない場合,各相続人からの個別の払戻しの請求には応じていません。

払戻に必要な書類は,①遺言書がある場合と,②遺産分割協議や相続人全員の合意による場合とで異なります。
まず,いずれの場合にも,各金融機関の指定の相続に関する届出書が必要になりますので,これについては各金融機関でご確認ください。
また,亡くなった親の預貯金の通帳,届出印,キャッシュカードなども必要になります。
それ以外に,①遺言書がある場合には,遺言書(自筆証書遺言などで検認が必要な場合は検認調書の謄本も必要)が必要です。
また,遺言書の中に遺言執行者の指定がない場合は,遺言執行者の選任を家庭裁判所に申立てるか,相続届出書に相続人全員が署名押印することが必要になります。
また,亡くなった親の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本,相続人全員の印鑑証明書,相続人全員の戸籍謄本,遺言執行者が選任されている場合は遺言執行者の印鑑証明書などが必要になります。
①遺言書がなく,遺産分割協議・調停・審判を経た場合は,遺産分割協議書,遺産分割調停の調停調書正本(または謄本),遺産分割審判の審判書の正本(または謄本)と確定証明書のいずれかが必要となります。
②の場合も,亡くなった親の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本,相続人全員の印鑑証明書,相続人全員の戸籍謄本が必要になります。

亡くなった親の預貯金の払戻しを受けるためには,まず金融機関に口座名義人である親の死亡を連絡し,上記の必要書類の準備を整えたうえで,金融機関にそれらの書類を提出するという流れになります。

預貯金の払戻については,戸籍の取得や,金融機関等との話し合いなど,手続にかなりの時間を要しますので,弁護士にご相談されることをお勧めします。

名古屋で相続に関してお困りの方はこちら

貸金庫その2

 以前,このブログで貸金庫の話題に触れたことがありますが,今回は,亡くなった方が実際に貸金庫を借りていた場合の対応について書きます。
 貸金庫の契約については,銀行等と貸金庫の使用者との間の,貸金庫の空間を使用する賃貸借契約と考えられていますので,貸金庫使用者が亡くなった場合,貸金庫の賃借権を,貸金庫使用者の相続人が共同で相続することになります。
 したがって,貸金庫の解約は,賃貸借契約の解除ということになりますので,銀行等は,原則として,相続人の全員の同意がないかぎり,貸金庫の解約には応じないことになります。
 そうすると,「亡くなった方が貸金庫を使っていたことは聞いているけど,中にどんなものが入っているか分からない。でも相続人の一部に連絡がとれない」というような場合に,いろいろと困ったことが生じます。
 実際,名古屋でご相談をお受けしていると,このようなお悩みで弁護士を尋ねて来られる方が多いです。
 このように,相続人の一部が相続手続に非協力的であったり,行方が知れないような場合,貸金庫の解約の前に,まず貸金庫の中身を確認することが必要です。
 貸金庫を開扉する場合,通常,銀行等の担当の立会いのもと,開扉してもらって中身を確認することになります。
 開扉してもらって中身を確認するところまでであれば,相続人の一部からの要求でも応じてくれる銀行がほとんどです。
 ただし,相続人であることが客観的に明らかでなければならないので,戸籍等の資料を取りそろえたうえで,銀行等に相談することになります。
 そして,ここからが大事なのですが,貸金庫を開扉してもらって中身を確認する際に,その中身がなんであったかを記録する必要があります。
 銀行によって運用は異なると思われますが,相続人の一部が所在不明であるような場合は,内規によって,貸金庫の内容物がいわゆる金目のものでない場合は,相続人の一部からの解約に応じる,という運用になっている銀行等がかなりあります。
 金目のもの,つまり財産的価値の高いものは,それが亡くなった方の遺産となるのであれば,相続人の全員で遺産分割の協議等を行った結果,その遺産を相続人のうちだれが取得するかが確定した場合でなければ銀行等が勝手に処分するわけにはいきませんし,相続人全員で合意できない場合も,合意に参加していない相続人が後に現れて銀行等に責任を追及するリスクがあるため,合意に参加していない相続人に法定相続分の相続財産が確保されていることが客観的に明らかでなければ,銀行は引渡しに応じることはできません。
 そこで,貸金庫を開扉して中身を確認した際に,金目のものがないので,後日,一部の相続人のみで解約をしたいときには,開扉に際して,公証人に立会ってもらい,公正証書でその状況を確認してもらうのがよいでしょう。
 公証人は,自分で見聞きしたりした結果について,「事実実験公正証書」というものを作成します。
 これが,貸金庫解約の際に,貸金庫の中身を客観的に明らかにする資料として役立つ場合がかなりあります。
 このような形で,相続人の一部からでも貸金庫の解約ができる場合がありますので,お悩みの方はご遠慮なくご相談ください。

相続法の改正

 昭和55年の改正以来,久々に相続法が改正されました。
 施行は平成31年7月1日(一部規定を除く)です。
 以下,改正のポイントを簡単にご説明いたします。
なお,上記のとおり,一部の改正につきましては,施行時期がずれています関係上,詳細についてお悩みの際は弁護士等にご相談ください。

1 配偶者の居住権を保護するための方策の整備
  被相続人の死後,遺された配偶者が,そのまま建物に居住し続けることを認めるための規定が整備されました。
  居住権が保護される期間の長短に応じ,それぞれ配偶者居住権,配偶者短期居住権と呼ばれます。
  配偶者居住権とは,配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物につき,配偶者に終身または一定期間使用収益を認める内容の権利で,遺産分割で配偶者に配偶者居住権を取得させたり,被相続人が遺言で配偶者に配偶者居住権を取得させることが可能になりました。
  配偶者短期居住権とは,遺産分割により建物の帰属が確定するまでの間など,法定の一定の短期間のみ認められる配偶者居住権です。

2 遺産分割に関する規定の見直し
  遺産分割に関しては,配偶者保護のため,婚姻期間が20年以上の夫婦の一方配偶者が居住用建物や敷地を贈与されたり遺言によって取得した場合に,これらの財産を遺産分割において特別受益としなくてよいという規定が設けられました。
  また,現在の民法や家事事件手続法では認められていなかった,家庭裁判所の判断を経ないで遺産分割前に預貯金を払い戻せる制度と,現在の家事事件手続法で認められる預貯金債権の仮分割の仮処分の要件を緩和する制度が設けられました。
  さらに,遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合,現在の民法ではそれらの財産は遺産分割の対象となりませんでしたが,共同相続人の同意によって,それらの財産を遺産分割の対象とできる規定が設けられました。

3 遺言に関する規定の見直し
  自筆証書遺言の要件につき,現在の民法ではその全文を遺言者が自書する必要がありますが,財産目録については自書でなくてもよいとすることで,自筆証書遺言を作成しやすくする見直しがされました。

4 遺留分制度に関する規定の見直し
  遺留分減殺請求の効果として,現在の民法では認められていなかった,遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生すると見直しがされました。
  
5 相続の効力に関する規定の見直し
  遺言書において,「Aに特定の財産を相続させる」といった内容が定められた場合,名義の変更などは不要で,当然財産がAに移転するとされていた現在の民法の解釈をあらため,第三者に対してAが権利を主張するには登記等が必要であるとする見直しがされました。

貸金庫に遺言書を保管するとどうなる?

名古屋で相続の相談をお受けしていると,貴重品の保管に,銀行の貸金庫を利用されている方が多いと感じることがあります。
しかし,遺言書を貸金庫に保管するときは注意が必要です。
公正証書で作成した遺言書であれば,公証役場に原本が保管されるのでそこまで問題にはなりませんが,例えば,一部だけ作成した自筆証書の遺言書を,大事なものだからということで貸金庫に保管すると,少し困ったことになる可能性があります。

以下のような事例を考えます。

被相続人甲さんには,相続人の長男乙さん,二男丙さんがいます。
生前,甲さんは,乙さんに面倒をみてもらい,乙さんに感謝していたので,全く疎遠で面倒もみてくれない丙さんより,乙さんに多くの財産を相続させる遺言書を作成して,甲さんが契約する貸金庫に保管しました。
甲さんが亡くなった後,遺言書が貸金庫に保管してあることを知った丙さんは,遺言書があるなら持ち出したいと思い,貸金庫を開扉してもらうために銀行をたずねました。
この事例で,丙さんは,貸金庫を開けて,遺言書を確認できるでしょうか。

まず,法律的には,貸金庫契約は,金融機関が貸金庫室内に備え付けられた貸金庫ないし貸金庫内の空間を利用者に貸与し,有価証券,貴金属等の物品を格納するために利用させるものとされており(最判平成11年11月29日),法的な性質は賃貸借契約であると考えられています。
契約者である被相続人が死亡しても,賃貸借契約である貸金庫契約は当然には終了せず,貸金庫契約にもとづく賃借権は,相続人に相続されることになります。
したがって,上の例では,乙さんと丙さんが貸金庫の賃借権を承継し,各相続人の準共有状態になります。
そして,貸金庫を開扉して,中にある遺言書の存在を確認するのみであれば,貸金庫の賃借権の内容等に変更を加える行為ではなく,相続手続の準備のため,他の相続人にも利益となるから,保存行為として,問題なく相続人の一人でも行えそうです。
また,遺言書の持ち出すために貸金庫を開扉する行為も,遺言書自体を持ち出すことをどう考えるかは難しいですが,検認手続という,遺言執行の前提として不可欠な手続のために必要であり,他の相続人にも利益となるから,これも保存行為と考えることが可能ではないかと思われます。

ただし,法律的にどう考えるかとは別に,金融機関が,相続人の一人からの貸金庫の開扉に応じるかどうか,という,実務上の問題があります。
金融機関は,相続人が揉めている,あるいは揉めそうだ,というような場合に,相続人の一人からの貸金庫開扉には応じない傾向にあります。
金融機関側から,開扉行為が保存行為にとどまるのか,それとも相続人の全員の同意を要する処分行為となるのかの判断が困難であり,一人の相続人の求めに応じて開扉して,後日,他の相続人からクレームがあることを避けたいと考えるのは無理もないところでもあります。
したがって,上の例で,丙さんが,「遺言書があるはずだ」と主張して貸金庫の開扉を求めても,「他の相続人の同意をもらってください」と断られる可能性が高いです。

それでは,丙さんはどうしたらよいのでしょうか。

一応,弁護士や公証人が関与して,貸金庫の開扉を求める方法はあるにはあるのですが,それよりも,遺言書を作成される方が,自筆証書で遺言を作成する場合,同様の内容のものを複数作成して,複数の場所で保管するなどの工夫が必要です。
また,1通しか作成していないのであれば,貸金庫に保管するのは控えた方がよいと思われます。

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『勝訴』と書いてある白いビラビラについて

 世間で注目を集める事件の判決が出たときに,よくニュースで見かける『勝訴』って書いたあの白いビラビラ。
 選ばれし者だけが持つことを許されるあのビラビラ。
 私は残念ながら弁護士になってからまだあのビラビラを持つ大役を仰せつかったことはないのですが,あのビラビラを掲げる際に,なんかルールってあるのでしょうか?
 ニュース等を見ている限り,皆さん一定のルールに従って掲げていらっしゃるようですし,ビラビラの形とかも決まっているようにも見えます。
 文言も『勝訴』『一部勝訴』『不当判決』とか決まってるようです。
 これって,弁護士業界の慣習にとどまるものなのか,なにか規則等できちんと定められているのか,ちょっと調べてみました。
 
 まず,弁護士業界的には,あれは『ビラビラ』ではなく,『ハタ』と呼んでいるようです。
 なんと,民事用,刑事用,行政事件用と用意してあって,日弁連からレンタルで借りるのが通常だそうです。

 そして,ありました,裁判所的には,あのハタのことは,『判決等即報用手持幡(はんけつとうそくほうようてもちばた)』と呼ぶようです。
 
 ニュース等で見ていると,判決等即報用手持幡(以下,「あのハタ」といいます。だれも『判決等即報用手持幡』って呼んでるの聞いたことがないので。)を持った弁護士は,ダダダーッと走って裁判所の外に行ってあのハタをビラッと広げてますが,あれも裁判所のルールがあるためらしいです。

 『裁判所の庁舎等の管理に関する規程(昭和43年6月10日最高裁判所規程第4号,改正 昭和43年10月30日最高裁判所規程第6号)』の第12条に「退去命令」という条項があり,第1項で,「管理者(注:最高裁判所にあっては最高裁判所事務総局経理局長,高等裁判所にあっては高等裁判所事務局長,地方裁判所(管轄区域内の簡易裁判所を含む)にあっては地方裁判所長,家庭裁判所にあっては家庭裁判所長とする,と規程第2条1項で定められています。)は,庁舎等において次の各号の一に該当する者に対し,その行為若しくは庁舎への立入りを禁止し,又は退去を命じなければならない。(以下略)」と定められています。
 その第9号に,「旗,のぼり,プラカード,拡声機その他これらに類する物を持ち込み,又は持ち込もうとする者」が挙げられています。
 第13条1項4号では,「撤去命令等」として,旗等の所有者又は所持者に対し,その撤去又は搬出を命じなければならない,と定められています。
 そして,規程の第2条4項では,「管理者は,必要があると認めるときは,当該裁判所の職員にその事務の一部を委任し,又は代理させることができる。」とあります。
 
 つまり,あのハタを持って裁判所の構内をプラプラしていると,係の人によって,裁判所からつまみだされてしまうということになります。

 ニュースになる事件とかで,目立ちたいからといって裁判所で手作りのハタを持って歩き回らないよう,お気をつけください・・・
 

続柄の表記

 弁護士は,相続の事件で書面を作成するときは,結婚している夫婦の間に生まれた二番目の男の子のことを,「二男」と表記します。
 すると,お客様にたまにご指摘を受けます。
 「せんせい,間違ってますよ。『次男』ですよね」って。
 
 どちらが正解なんでしょうか?
 名古屋と東京でルールが違ったりするのでしょうか?

 実は,使用する場面においては「二男」の方が正しい(とされる)ことがあります。
 例えば,役所とか裁判所とか,公の場面で続柄を表記する場合は,「二男」と表記します。
 その理由は,戸籍の記載において「二男」と表記されるから,ということになります。
 戸籍法施行規則に「附録第六号 戸籍の記載のひな形(第三十三条関係)」というものがあり,この中で,「長男」「長女」「二男」「二女」という表記があり,これが根拠となるようです。
 
 ちなみに,日本新聞協会では「次男」という表記を使用しているということで,ニュースなどでは,「次男」の方がなじみがあると思います。
 というか,これは新聞等で「次男」が使用される理由にもなっているようですが,「二男」って,普通に読むと「になん」ですよね。「二」という漢字には,「ジ」という読み方はなく,常用漢字表にも記載されていません。

 ・・・と,ここまでであれば,「へ~,戸籍とかに関しては,日常とは違う漢字を使うんですね~」と,なんか豆知識ひとつ増えたな,くらいの感想で終われそうなんですが,個人的には少し厄介だな~と感じることがあります。
 
 相続に関する法律的な文書には「二男」「二女」と使用する,としたときに,例えば,遺言書を作成する場面をご想像ください。

 遺言書を作成するお父さんに,息子さんが3人いたとします。
 長男は家業を継いで頑張ってくれた,二男(次男?)は自分達夫婦の面倒をよくみてくれる,三男は東京の大学に行ったっきり,全く実家によりつかないし,あそこの嫁はなんか気にくわない・・・
 という状況で,お父さんが,長男と二男に,ご自分の財産のほとんどを相続させるような遺言書を『自筆で』作成されたとします。

 「不動産○○は長男に,預貯金△△は二男に~」というような内容の遺言書を作成し,これで自分に何かあっても安心・・・と思っていたら,その遺言書の内容を見た三男が,自分も財産が欲しい!と思った場合,こんなことにならなければいいなと思うんですが・・・

 「二男」の「二」に,一本横棒を入れると,簡単に「三男」になっちゃいますよね。
 もちろん,そうならないために,「二男山田次郎(平成〇年〇月〇日生)」というように,きちんと氏名と生年月日で特定すればこの危険は避けられますが,法律というか公的な文書で使用される表記の方が偽造されやすい表記というのも,なんか皮肉な感じがします。

世間とのズレ

 先日,名古屋でのご依頼者との打合せで,相手方の代理人弁護士が書面で用いた言葉遣いについて,「物言いが上から目線過ぎる」とご指摘を受けました。
 
あまり具体的に書くと問題があるので控えますが,その言葉自体は言葉の意味としても特に失礼な言葉ではありません。
 現在では日常会話で使用されることもないような言葉なので,語感だけで「なんか偉そう」と感じられることがある言葉ではあるかもしれません。
 ただ,私は正直,最初に文書を見た時はその言葉遣いにそれほど違和感を感じませんでした。
 というより,たぶん気に留めてませんでした。
 
自分が弁護士として相手方に文書を送る際には気をつけよう,と思いました。
 
 それはともかく,この例のみならず法曹界と世間の感覚がズレてるんじゃないか,と感じることは,言葉遣いの面に限っても多いです。
 私が昔よく感じていたのは,判決書を読んでいて,「こんな言葉,判決書以外で使っている人は見たことも聞いたこともない」という言葉が結構あることでした。
 
 「畢竟」「毫も認められない」「なかんずく」・・・多分普通は読み方すら分からない。
 
 「畢竟」は,「ひっきょう」と読みます。「畢」も「竟」も終わる,という意味で,あわせて「結局」「つまるところは」という意味です。

 「毫」というのは,「ごう」と読みます。細い毛のことです。
 「毫も認められない」は,「1ミリもない!絶対にない!」みたいな意味です。
  
 「なかんずく」は,「いろいろある中で,特に」「とりわけ」という意味です。
 「就中」と,漢字で書くとイメージが湧くかもしれません。
 
 昔はこういう言葉を判決書の中でよく見たんですが,最近はさすがに見かけません。
 でも結構最近まで見てた気がするので,いったいいつ頃まで使用されていたのか代表的な判例検索ソフトで,ちょっと簡単に調べてみました。
 
 まず「畢竟」から・・・さすがに平成二桁になったら,もう使われてないよねーと検索してみると・・・
 平成30年2月7日の地裁の裁判例で使われてました・・・!
 その他にも,地裁・高裁だと現在でも絶賛使用中でした。
 
 ちょっと最高裁の判例に限定して調べ直してみます。
 最高裁では,平成9年,10年くらいまでは普通に使われていますが,平成20年に1件,検索がヒットするのみで最近は使用されていません。

 次に「毫も」。
 同じく最高裁に限定して調べてみます。
 こちらも平成15年が最新で,それ以降は使用がヒットしません。
 刑事裁判では割と最近でも使用されていました。
 
 最後,「なかんずく」です。
 これは平成23年の判決で使用されています。

 こんな感じで,自分の思っていたより最近まで,判決書では難しい言葉が使われていました。

相続放棄と相続財産の管理について④

前回までで,民法第940条を挙げて,相続放棄したとしても,次の相続人が相続財産の管理を開始できるまでの間は,相続財産の管理義務は継続することをご説明しました。
今回は,最後に,「相続人の全員が相続放棄した後は,財産の管理義務はどうなるのか」について書きます。

まず,民法第940条1項の条文を(しつこいですが)もう一度挙げます。
「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と定めてあります。

この条文を素直に読むと,相続人全員が相続放棄すると,もはや次順位の相続人がいない以上,「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができる」時が来ないんじゃないか,と思えます。

しかし,相続人がいない場合の相続財産の扱いについても,民法では規定されており,簡単にいうと,相続人の代わりに,相続財産管理人が家庭裁判所によって選任されることになり,相続財産管理人が,相続財産について管理していくことになります。

・・・なんだ,問題は解決するじゃないか,と思われた方,すみません。
相続財産管理人はどうやって選任されるのか,という問題があります。
相続財産管理人の選任については,民法第951条,第952条に定められています。
民法第951条は,「相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は,法人とする。」と定め,第952条は,「前条の場合には,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求によって,相続財産の管理人を選任しなければならない。」と定めています。
このように,相続財産管理人は,申立によって選任されることになっています。
「利害関係人」とは,「相続財産の帰属について法律上の利害関係を有する者」とされており,遺贈を受けた者,相続財産の債権者・債務者,特別縁故者などがあたります。
預貯金等がかなりあって,借金もそれなりにあるような方がなくなった場合で,相続人がいなければ,債権者が利害関係人として相続財産管理人の選任を申し立てることはあるかもしれませんが,不動産のように管理を要する相続財産のみが存在するにもかかわらず,相続人全員が相続放棄したような場合には,相続放棄した人が,相続財産管理人の選任申立をして,相続財産管理人に管理を引き継がなくては,相続財産の管理義務を免れないと解釈することになります。

ここで最後の大きな問題なのですが,相続財産管理人の申立に際しては,手続費用について申立人が予納する必要があります。
相続財産の中から手続費用を支出できればよいのですが,そもそも相続人全員が相続放棄するようなケースで多いのは,管理の必要がある不動産のみが相続財産で,それ以外に目立った資産はなく,かつその不動産も価値がない,といったパターンですから,この予納金が相続財産から捻出できないことが多いと思われます。
このような場合は,最後に相続放棄する人が予納金を負担せざるを得ない形になりますので,相続財産の管理は本当に難しい問題です。
名古屋も最近台風が多く,相続財産管理の問題が多く発生しないか弁護士としては心配しております。

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相続放棄と相続財産の管理について③

 前回までで,相続人に順位があり,その順位は①被相続人の子,②被相続人の直系尊属,③被相続人の兄弟姉妹(代襲相続に関する説明は省きます)という順位になっており,先順位の相続人がいる場合は,次順位以降の人は相続人にはならない,ということをご説明しました。

 話を先に進めると,このように,相続人に順位があり,また,相続放棄の効果として,民法第939条が,「相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす。」と定めていることから,ある人が相続放棄した場合に,相続人の順位の繰り上げが起こることがあります。

 例えば,甲さんがなくなり,甲さんの子が乙さん,丙さんで,甲さんのお父さんが丁さんで,乙さん丙さんが相続放棄をしようとしているケースを考えると,乙さんだけが相続放棄しても,まだ子の丙さんがいますので,丙さんも相続放棄しなければ,丁さんは相続人になりません。
 この後,丙さんも相続放棄すると,第1順位である被相続人の子が,全員「初めから相続人とならなかった」ことになり,第2順位の丁さんが相続人になります。

 やっと,民法第940条の規定に戻ります。
 もう一度民法第940条を挙げると,「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と定めてあります。

 つまり,この条文は,先ほどの例でいうと,乙さん丙さんが相続放棄しても,丁さんが相続人となって,相続財産の管理を始めるまでは,乙さん丙さんは相続財産の管理義務を免れない,ということを規定しているのです。

 また,この条文は,典型的には,このように順位の繰り上げが起こった場合に適用される規定ではありますが,例えば,乙さんが先に相続放棄して,同順位の丙さんが相続放棄してない場合も含むと解釈されていますので,その解釈に従うなら,相続開始後,事実上,財産を一人で管理していた乙かんが相続放棄した場合,丙さんが管理を開始できるようになるまでは,やはり乙さんに管理義務があることになります。
  
 以上のように,民法第940条に従うと,相続放棄しても,次に相続人になる人が相続財産の管理を開始するまでは,財産の管理義務を免れないことになります。

 つまり,弁護士としては,名古屋でも先日の台風で,相続財産として管理していた建物が壊れた,などの影響は出たとしたら,相続放棄をしたからといって,その時点で相続財産の管理義務を免れると考えるのは難しいので,他の相続人が管理できる状態になるまでは,管理を継続した方がよいでしょう,とお答えすることになります。
 
 残る問題は,「じゃあ,相続人が全員相続放棄して,相続人がいなくなったらどうするか?」という点ですが,この点については次回ご説明いたします。

相続放棄と相続財産の管理について②

 前回は,相続放棄したとしても,どうやらすぐには被相続人の財産の管理義務から逃れることはできないらしい,ということに関して,民法第940条1項の条文をご紹介しました。
 もう一度,民法第940条1項を挙げると,「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」という条文でした。
 この条文を理解するために,今回は,「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」の意味をご説明します。

 相続人には,「順位」があります。
 まず,ある人が亡くなった時,その人の配偶者(夫あるいは妻)は,いつでも相続人になりますので,順位は,第1順位になる人と同順位ということになります。
 民法第890条は,「被相続人の配偶者は,常に相続人となる。」と定められています。
 配偶者とともに,だれが相続人になるのか,について順位があります。
 相続人の順位に関係する条文は,民法第887条と第889条です。 
 まず,第887条1項に,「被相続人の子は,相続人となる。」と定められており,第889条1項に,「次に掲げる者は,第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。」と定められ,その「次に掲げる順位」というのは,「1 被相続人の直系尊属。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。 2 被相続人の兄弟姉妹」と定められています。

 ややこしいのでここまでを整理すると,
 まず,相続人の順位1番は被相続人の子です。
 亡くなった方にお子さんがいたのであれば,民法第887条1項と第890条より,そのお子さんと,配偶者がいれば配偶者とが相続人になります。
 この場合は,亡くなった方の親や兄弟は相続人とはなりません。

 次に,亡くなった方にお子さんがいなかったのであれば,第889条1項1号により,その方の親が相続人になります。
 この場合に,亡くなった方に配偶者がいたのなら,配偶者も相続人となります。
 仮に,亡くなった方の両親ともなくなっていたが,その親が存命なら,第889条1項1号のただし書きにより,親の親が相続人になります。
  
 そして,亡くなった方に子もいない,親も(そのまた親も,そのまた親も・・・)いない,ということで,亡くなった方より上に遡ってもだれもいない場合には,亡くなった方の兄弟姉妹が相続人となります。

つまり,相続人には,①被相続人の子,②被相続人の直系尊属,③被相続人の兄弟姉妹,という順位があり,先順位の相続人がいる場合は,次順位の人は相続人にはならないことになります(代襲相続については説明が複雑になるので触れません)。

やっと相続人の順位の説明が終わりましたので,次回は相続放棄後の財産管理義務の話に戻ります。

 名古屋でも先日の台風の影響で,相続財産の建物が棄損したというご相談を受けますので,タイミング的にお悩みの方はいらっしゃるかと思いますので,弁護士として少しでも本記事をご参考にしていただければと思います。