世間とのズレ

 先日,名古屋でのご依頼者との打合せで,相手方の代理人弁護士が書面で用いた言葉遣いについて,「物言いが上から目線過ぎる」とご指摘を受けました。
 
あまり具体的に書くと問題があるので控えますが,その言葉自体は言葉の意味としても特に失礼な言葉ではありません。
 現在では日常会話で使用されることもないような言葉なので,語感だけで「なんか偉そう」と感じられることがある言葉ではあるかもしれません。
 ただ,私は正直,最初に文書を見た時はその言葉遣いにそれほど違和感を感じませんでした。
 というより,たぶん気に留めてませんでした。
 
自分が弁護士として相手方に文書を送る際には気をつけよう,と思いました。
 
 それはともかく,この例のみならず法曹界と世間の感覚がズレてるんじゃないか,と感じることは,言葉遣いの面に限っても多いです。
 私が昔よく感じていたのは,判決書を読んでいて,「こんな言葉,判決書以外で使っている人は見たことも聞いたこともない」という言葉が結構あることでした。
 
 「畢竟」「毫も認められない」「なかんずく」・・・多分普通は読み方すら分からない。
 
 「畢竟」は,「ひっきょう」と読みます。「畢」も「竟」も終わる,という意味で,あわせて「結局」「つまるところは」という意味です。

 「毫」というのは,「ごう」と読みます。細い毛のことです。
 「毫も認められない」は,「1ミリもない!絶対にない!」みたいな意味です。
  
 「なかんずく」は,「いろいろある中で,特に」「とりわけ」という意味です。
 「就中」と,漢字で書くとイメージが湧くかもしれません。
 
 昔はこういう言葉を判決書の中でよく見たんですが,最近はさすがに見かけません。
 でも結構最近まで見てた気がするので,いったいいつ頃まで使用されていたのか代表的な判例検索ソフトで,ちょっと簡単に調べてみました。
 
 まず「畢竟」から・・・さすがに平成二桁になったら,もう使われてないよねーと検索してみると・・・
 平成30年2月7日の地裁の裁判例で使われてました・・・!
 その他にも,地裁・高裁だと現在でも絶賛使用中でした。
 
 ちょっと最高裁の判例に限定して調べ直してみます。
 最高裁では,平成9年,10年くらいまでは普通に使われていますが,平成20年に1件,検索がヒットするのみで最近は使用されていません。

 次に「毫も」。
 同じく最高裁に限定して調べてみます。
 こちらも平成15年が最新で,それ以降は使用がヒットしません。
 刑事裁判では割と最近でも使用されていました。
 
 最後,「なかんずく」です。
 これは平成23年の判決で使用されています。

 こんな感じで,自分の思っていたより最近まで,判決書では難しい言葉が使われていました。

相続放棄と相続財産の管理について④

前回までで,民法第940条を挙げて,相続放棄したとしても,次の相続人が相続財産の管理を開始できるまでの間は,相続財産の管理義務は継続することをご説明しました。
今回は,最後に,「相続人の全員が相続放棄した後は,財産の管理義務はどうなるのか」について書きます。

まず,民法第940条1項の条文を(しつこいですが)もう一度挙げます。
「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と定めてあります。

この条文を素直に読むと,相続人全員が相続放棄すると,もはや次順位の相続人がいない以上,「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができる」時が来ないんじゃないか,と思えます。

しかし,相続人がいない場合の相続財産の扱いについても,民法では規定されており,簡単にいうと,相続人の代わりに,相続財産管理人が家庭裁判所によって選任されることになり,相続財産管理人が,相続財産について管理していくことになります。

・・・なんだ,問題は解決するじゃないか,と思われた方,すみません。
相続財産管理人はどうやって選任されるのか,という問題があります。
相続財産管理人の選任については,民法第951条,第952条に定められています。
民法第951条は,「相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は,法人とする。」と定め,第952条は,「前条の場合には,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求によって,相続財産の管理人を選任しなければならない。」と定めています。
このように,相続財産管理人は,申立によって選任されることになっています。
「利害関係人」とは,「相続財産の帰属について法律上の利害関係を有する者」とされており,遺贈を受けた者,相続財産の債権者・債務者,特別縁故者などがあたります。
預貯金等がかなりあって,借金もそれなりにあるような方がなくなった場合で,相続人がいなければ,債権者が利害関係人として相続財産管理人の選任を申し立てることはあるかもしれませんが,不動産のように管理を要する相続財産のみが存在するにもかかわらず,相続人全員が相続放棄したような場合には,相続放棄した人が,相続財産管理人の選任申立をして,相続財産管理人に管理を引き継がなくては,相続財産の管理義務を免れないと解釈することになります。

ここで最後の大きな問題なのですが,相続財産管理人の申立に際しては,手続費用について申立人が予納する必要があります。
相続財産の中から手続費用を支出できればよいのですが,そもそも相続人全員が相続放棄するようなケースで多いのは,管理の必要がある不動産のみが相続財産で,それ以外に目立った資産はなく,かつその不動産も価値がない,といったパターンですから,この予納金が相続財産から捻出できないことが多いと思われます。
このような場合は,最後に相続放棄する人が予納金を負担せざるを得ない形になりますので,相続財産の管理は本当に難しい問題です。
名古屋も最近台風が多く,相続財産管理の問題が多く発生しないか弁護士としては心配しております。

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相続放棄と相続財産の管理について③

 前回までで,相続人に順位があり,その順位は①被相続人の子,②被相続人の直系尊属,③被相続人の兄弟姉妹(代襲相続に関する説明は省きます)という順位になっており,先順位の相続人がいる場合は,次順位以降の人は相続人にはならない,ということをご説明しました。

 話を先に進めると,このように,相続人に順位があり,また,相続放棄の効果として,民法第939条が,「相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす。」と定めていることから,ある人が相続放棄した場合に,相続人の順位の繰り上げが起こることがあります。

 例えば,甲さんがなくなり,甲さんの子が乙さん,丙さんで,甲さんのお父さんが丁さんで,乙さん丙さんが相続放棄をしようとしているケースを考えると,乙さんだけが相続放棄しても,まだ子の丙さんがいますので,丙さんも相続放棄しなければ,丁さんは相続人になりません。
 この後,丙さんも相続放棄すると,第1順位である被相続人の子が,全員「初めから相続人とならなかった」ことになり,第2順位の丁さんが相続人になります。

 やっと,民法第940条の規定に戻ります。
 もう一度民法第940条を挙げると,「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と定めてあります。

 つまり,この条文は,先ほどの例でいうと,乙さん丙さんが相続放棄しても,丁さんが相続人となって,相続財産の管理を始めるまでは,乙さん丙さんは相続財産の管理義務を免れない,ということを規定しているのです。

 また,この条文は,典型的には,このように順位の繰り上げが起こった場合に適用される規定ではありますが,例えば,乙さんが先に相続放棄して,同順位の丙さんが相続放棄してない場合も含むと解釈されていますので,その解釈に従うなら,相続開始後,事実上,財産を一人で管理していた乙かんが相続放棄した場合,丙さんが管理を開始できるようになるまでは,やはり乙さんに管理義務があることになります。
  
 以上のように,民法第940条に従うと,相続放棄しても,次に相続人になる人が相続財産の管理を開始するまでは,財産の管理義務を免れないことになります。

 つまり,弁護士としては,名古屋でも先日の台風で,相続財産として管理していた建物が壊れた,などの影響は出たとしたら,相続放棄をしたからといって,その時点で相続財産の管理義務を免れると考えるのは難しいので,他の相続人が管理できる状態になるまでは,管理を継続した方がよいでしょう,とお答えすることになります。
 
 残る問題は,「じゃあ,相続人が全員相続放棄して,相続人がいなくなったらどうするか?」という点ですが,この点については次回ご説明いたします。

相続放棄と相続財産の管理について②

 前回は,相続放棄したとしても,どうやらすぐには被相続人の財産の管理義務から逃れることはできないらしい,ということに関して,民法第940条1項の条文をご紹介しました。
 もう一度,民法第940条1項を挙げると,「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」という条文でした。
 この条文を理解するために,今回は,「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」の意味をご説明します。

 相続人には,「順位」があります。
 まず,ある人が亡くなった時,その人の配偶者(夫あるいは妻)は,いつでも相続人になりますので,順位は,第1順位になる人と同順位ということになります。
 民法第890条は,「被相続人の配偶者は,常に相続人となる。」と定められています。
 配偶者とともに,だれが相続人になるのか,について順位があります。
 相続人の順位に関係する条文は,民法第887条と第889条です。 
 まず,第887条1項に,「被相続人の子は,相続人となる。」と定められており,第889条1項に,「次に掲げる者は,第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。」と定められ,その「次に掲げる順位」というのは,「1 被相続人の直系尊属。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。 2 被相続人の兄弟姉妹」と定められています。

 ややこしいのでここまでを整理すると,
 まず,相続人の順位1番は被相続人の子です。
 亡くなった方にお子さんがいたのであれば,民法第887条1項と第890条より,そのお子さんと,配偶者がいれば配偶者とが相続人になります。
 この場合は,亡くなった方の親や兄弟は相続人とはなりません。

 次に,亡くなった方にお子さんがいなかったのであれば,第889条1項1号により,その方の親が相続人になります。
 この場合に,亡くなった方に配偶者がいたのなら,配偶者も相続人となります。
 仮に,亡くなった方の両親ともなくなっていたが,その親が存命なら,第889条1項1号のただし書きにより,親の親が相続人になります。
  
 そして,亡くなった方に子もいない,親も(そのまた親も,そのまた親も・・・)いない,ということで,亡くなった方より上に遡ってもだれもいない場合には,亡くなった方の兄弟姉妹が相続人となります。

つまり,相続人には,①被相続人の子,②被相続人の直系尊属,③被相続人の兄弟姉妹,という順位があり,先順位の相続人がいる場合は,次順位の人は相続人にはならないことになります(代襲相続については説明が複雑になるので触れません)。

やっと相続人の順位の説明が終わりましたので,次回は相続放棄後の財産管理義務の話に戻ります。

 名古屋でも先日の台風の影響で,相続財産の建物が棄損したというご相談を受けますので,タイミング的にお悩みの方はいらっしゃるかと思いますので,弁護士として少しでも本記事をご参考にしていただければと思います。

相続放棄と相続財産の管理について①

 相続について名古屋でご相談を受けていて,最近多いのは,「被相続人が,古くて価値のない建物を所有していたのだが,今ではだれも住んでいないし,自分達もそんな不動産は欲しくないので,相続放棄したい」というようなご相談です。
 たしかに,無価値で管理の手間ばかりかかる不動産であれば相続したくないと思われるのは当然です。
 気になるのは,「相続放棄すれば,問題は全て解決するのか?」という点です。
  
 法律がどのようになっているのかを確認してみます。
  
 まず,被相続人が亡くなって,相続が開始した時点では,被相続族人の所有していた財産について,だれにどのような管理の義務が課せられているかについては,民法第918条1項本文に規定があります。
 民法第9181項本文には,「相続人は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければならない。」とあります。
 ここで,「その固有財産」というのは,相続人が,相続開始前から所有していた自分自身の財産のことをいいます。
 つまり,相続開始後は,法律では,相続人に被相続人の財産の管理義務が課されており,その管理の際の注意義務の程度としては,他人に管理を任されて預かっている財産ほどではなくても,自分自身の財産と同じ程度の注意義務をもって管理する,ということになっています。

 そして,民法第939条により,「相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす。」と定められており,また,さきほどの民法第918条1項のただし書きにも,「ただし,相続の承認または放棄をしたときは,この限りでない。」と定められていますから,相続放棄をすれば,とりあえず,被相続人の財産について,民法第918条1項の定める管理義務を免れることになりそうです。
  
 しかし,お話はここで終わりではありません。
 法律は,このように,相続人の誰かが相続放棄をした場合,被相続人の財産が放置されたりすることで,財産の価値が減少し,次順位の相続人に迷惑がかかるようなことがないようにするため,次のような規定を用意しています。
 民法第940条1項がその条文で,「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産と同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と定められています。
 この条文の意味を理解するには,まず,「その放棄によって相続人となった者」というのがだれなのか,相続人の順位について説明が必要ですので,次回は相続人の順位についてご説明します。

養子縁組をすると節税になるのか

 たまに弁護士へのご相談で,「養子縁組をすると相続税対策になるのか」と聞かれることがあります。
 答えは,「なることもあるし,ならないこともある」です。
 相続税の計算において,遺産には基礎控除が認められています(相続税法15条)。
 基礎控除額は,3000万円+(600万円×法定相続人の人数)で計算されますが,この場合の法定相続人には,養子縁組した子も含まれますので,基礎控除によって相続税の課税遺産総額を減らして,相続税の負担を軽減することができることになります。
 ただし,生前にジャンジャン養子縁組すれば,相続税を0にできる,というわけではありません。
 当然ですが,いろいろと制限があります。主に,①民法上の考慮と,②相続税法上の考慮が重要です。
 ①民法上の考慮については,民法第802条1号との関係で必要となります。
 民法第802条は,柱書で,「縁組は,次に掲げる場合に限り,無効とする。」として,養子縁組が無効になる場合を定めています。
 そして,その1号で,「・・・当事者間に縁組をする意思がないとき。」と定めています。
 したがって,当事者間に縁組をする意思(真の親子関係を設定する意思)がない場合は,養子縁組が無効とされる可能性があります。
 この点について,相続税の節税のためになされた養子縁組の無効の確認を求める訴訟において,裁判所は,「養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の人数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条にいう「当事者間に養子縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」と述べました(最高裁第三小法廷平成29年1月31日判決)。
 このことからすると,相続税の節税のための養子縁組であったとしても,そのことから直ちに養子縁組が無効とされることはないといえます。
 次に,②相続税法上の考慮としては,「何人でも養子を増やすことで,相続税をどんどん減らす」ということはできない,という点が重要です。
 基礎控除の計算においては,被相続人に実子がいる場合は1人まで,実子がいない場合は2人まで法定相続人の数に加えることができる,という制限があります(相続税法15条2項,3項)のでご注意ください。
 今のところ,名古屋でそのような話を聞いたことはありませんが,名前を貸しますから節税のために養子縁組しませんか,とか言ってくる人がまわりにいたら,慎重にご判断ください。

親族と姻族について②

 前回はクイズを出しました。
 もう一度事例を掲載します。

  事例1
  一郎さんの妻が桃子さん,桃子さんの妹が梅子さん,梅子さんの夫が二郎さんです。
   この場合,一郎さんと二郎さんは「親族」でしょうか?

 答えは,「親族でない」です。
 
 前回,親族について,民法は,「3親等内の姻族」について,親族と定めているとお話ししました。
  そして,姻族とは,①配偶者の血族と②血族の配偶者をいい,今回はそのうち①が関係する事例でした。
  事例1に沿って考えると,一郎さんからみて,奥さん(配偶者)である桃子さんの血族である梅子さんは,姻族にあたります。
  しかし,梅子さんの配偶者である二郎さんは,桃子さんとは血縁関係がないので,桃子さんの血族にはあたりません。また,二郎さんは,当然,梅子さんの血族でもありません。
  したがって,一郎さんからみて,「配偶者の血族の配偶者」に過ぎない二郎さんは,民法上の親族にはあたらない,ということになります。
  そのため,親族間に適用される法律上のルール(例えば,家庭裁判所は,特別の事情があるときは,3親等内の親族にも扶養義務を負わせることができる:民法877条2項)は,一郎さんと二郎さんの間には適用されません。
  
 さて。
  ここまで,長々と「親族」や「姻族」についてのお話をしたのは,法律上「姻族」とか「親族」にあたるかの判定は,弁護士や法律に関わる人であればまだしも,そうでない方にとっては,ぱっと見で分かりやすいものでは必ずしもない,ということをお分かりいただきたかったからです。

  今までご確認いただいたように,「姻族」にあたるかどうかは,ちょっと立ち止まって定義にあてはめて考えてみたくなるようなものです。
  つまり,前回お話しした「配偶者」や「血族」ほど,だれが見ても一目で判断がつくものではないといえます。

  しかし。
  無いんです「姻族」の定義が。
  民法には。
 
  「民法〇〇条(姻族の範囲)
   次に掲げる者は,姻族とする。
   1 配偶者の血族
   2 血族の配偶者」
  みたいな条文があっても良さそうなものなのに。

  何回民法を見返しても,ありません。

  そこで,私は,そもそも「姻族」って一体どこで定義されているんだろう?
 と不思議に思ったため,「姻族」の定義が何かの法律でされているのか,されているとしたらどの法律なのか,について調べてみようと思い立ったのでした。
  
  とりあえず,いろいろ検索してみたんですが,なかなか思うような結果には行きあたりませんでした。
  これはもう少し調べてみる必要があるかもしれませんので,また時間のある時に名古屋の図書館を漁って結果をご報告します。

親族と姻族について①

 親族法・相続法の分野では,家族関係を定義する用語として,「血族」「姻族」「親族」といった言葉が用いられます。
 日常的には,親戚一同を広く表現する言葉として「親族」という言葉が用いられることがありますが,弁護士が用いる法律用語としてはきちんと定義されています。
 法律的には,「親族」とは,次のように定義されています。

 民法725条(親族の範囲)
 次に掲げる者は,親族とする。
 1 6親等内の血族
 2 配偶者
 3 3親等内の姻族

 ここで,次に,「血族」とは何か,「3親等」とはどの範囲か,「姻族」とは何か,ということが問題となりますが,親等とは,親族間の世代数のことであり,これは民法で以下のように定められています。

 民法726条
 1 親等は,親族間の世代数を数えて,これを定める。
 2 傍系親族の親等を定めるには,その一人又はその配偶者から同一の祖先にさかのぼり,その祖先から他の一人に下るまでの世代数による。

 第2項がやや分かりにくいですが,例えば,自分の兄弟が何親等にあたるかを数えるには,自分からスタートして,同一の祖先である父母に至るところで一世代さかのぼり,そこから兄弟に至るところで一世代下ることになるので,自分からみて兄弟は2親等,ということになります。

 このような次第で,民法上,「親族」や「親等」については定義されているものの,そもそも「配偶者」,「血族」,「姻族」といった用語については,民法では直接的には定義されていません。
 配偶者や血族については,日常用語のイメージどおり,婚姻関係にある相手方を配偶者と呼び,血のつながりのある者を血族と呼ぶという理解で問題ありません。
 しかし,「姻族」って,聞いただけで自分にとってだれが姻族なのか,すぐに判断がつく方はあまり多くないのではないでしょうか。
 「姻族」とは,婚姻関係によって生じる親族関係であり,①配偶者の血族と②血族の配偶者の2種類が生じます。
 こう書くと単純そうなのですが,姻族かどうかの判定は,分かっていないとちょっと混乱します。

 試しにクイズです。
 ①の配偶者の血族が姻族,という点に関連して,次の事例について考えてみてください。
 事例1
  一郎さんの妻が桃子さん,桃子さんの妹が梅子さん,梅子さんの夫が二郎さんです。
  この場合,一郎さんと二郎さんは「親族」でしょうか?
 
 日常生活では,事例1の二郎さんが一郎さんのことを「おにいさん」と呼んだりしますから,「親族」かも,と思えたりもしますが(と書くと答えを書いたようなものですが),答えは次回に書きます。

相続税の申告について

名古屋で相続に関するご相談を受けていると,弁護士に対する相談ではあっても,ほぼ毎回,相続税の申告についても質問を受けます。
その中でも一番多いのは,「そもそも自分には相続税の申告の義務はあるのか?」というご質問です。
いろいろな所でアドバイスを受けた結果,「いろんな控除を使うと自分の場合は納付額がゼロになりそうだ」とか,「納付額がゼロの場合は申告も不要だそうだ」といった,断片的な情報からの判断で,実は申告が必要なのに申告をしなくて良いとご判断されていた方もご相談者の中にはいらっしゃったので,今回はこのテーマで書いてみようと思います。
相続税の申告は,相続の開始があったことを知った日(一般的には被相続人の死亡日となるでしょう)の翌日から10か月以内に行わなければならないことになっています。
相続が開始してから,相続税の申告期限が経過するまでは,あっという間に過ぎてしまいます。
相続人の間で遺産分割の協議をしている場合などは,なおさら時間が過ぎるのは早いので,注意が必要です。
ただし,どのような場合でも必ず申告が必要なわけではないので,申告が必要かどうかを早めに判断することをお勧めします。
相続税の申告が必要なのは,「①相続税の課税価格の合計額が遺産にかかる基礎控除を超える者で,かつ,②納付すべき相続税額がある者」とされていますので,課税価額の合計額が基礎控除額以下である場合,または基礎控除額を超えても,税額控除をした結果,納付すべき税額がない場合には申告を行う必要はないことになります。
基礎控除とは,課税対象の財産の額の一部を相続税の非課税枠とする制度です。
3000万円+(600万円×法定相続人の数)の額は,相続税が非課税となります。
ここで,「法定相続人の数」とは,相続の放棄があった場合は,その放棄がなかったものとした場合における相続人をいうとされており,相続放棄した相続人がいたとしても,その相続放棄がなかったものとして計算されますので,たとえば,相続人が4人いた場合,そのうちの1人が相続放棄した場合でも,基礎控除額の計算のうえでは法定相続人の数は4人となり,3000万円+(600万円×4人)=5400万円が基礎控除額となります。
このように,基礎控除や他の税額控除の結果,納付すべき税額がない場合であっても,小規模宅地等の減額の特例および配偶者税額軽減規定等の適用については注意が必要です。
これらの適用を受けるには,相続税の申告書の提出が要件となっているため,その適用によって納付税額がゼロになる場合でも,申告が必要になりますので注意が必要です。
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相続放棄とカード等の解約

ある日突然ご親族の方が亡くなり,相続人となる方に,亡くなった方がご利用されていたクレジットカードの請求がくる,というのは,どなたの身にも起こりうることです。
特に,急にご親族が亡くなられた場合には,ご遺族のお気持ちや周辺の整理で大変なご状況にあることなど一切考慮せず,カード会社等は相続人宛に請求を送りつけてきます。
この場合,亡くなられた方がお若い場合等によくあるのが,プラスの資産としては目立ったものがない一方で,複数のクレジットカードを所持して,キャッシングやショッピングに利用されており,その総数や利用額の残高がご遺族にも把握できないというようなケースです。
このような場合,そのまま亡くなられた方の財産を相続すると,プラスの財産のみでなく,借金やショッピングのリボ支払い残高等のマイナスの財産も相続することになってしまうので,相続放棄をすることが選択肢として考えられます。
相続放棄をする場合は,相続の開始を知った時から3カ月以内に,亡くなられた方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に,相続放棄の申述をすることになります。
相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されると,申述した方は最初から亡くなった方の相続人ではなかったことになります。
そして,受理後は,相続放棄が受理されたことを公的に証明する書面として,家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書の交付を申請することができますので,債権者から請求がきた場合は,この相続放棄申述受理証明書の写しを送付して,相続放棄したことを連絡して,以後,ご遺族に請求がこないようにします。
ここまではよいのですが,カード会社や携帯電話会社によっては,さらに手続を要求してくることがあります。
その際,おかしな対応を迫ってくる業者もありますのでご注意ください。
具体的には,相続放棄された方に,亡くなった方の代理人として,契約の解約手続をすることを要求してくる業者があります。
例えば相続放棄をする前に,解約の手続だけに協力してもらいたい,というのであれば,相続放棄の手続を進めている最中であることを業者に伝えたうえで,解約手続のみ協力する,というのは百歩譲ってあり得るところです。
しかし,ひどい業者になると,相続放棄の申述が受理された後でも,亡くなった方の代理人として解約手続をしてもらわなければならない,などと言い,解約の場合の違約金を支払うことを相続放棄された方に迫るような業者もあります。
亡くなった方の代理は法律上できませんし,相続放棄された方が亡くなった方の契約の違約金を支払う必要もありません。
このような要求をされた場合は,専門家にご相談されることをお勧めします。

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和解という知恵

弁護士になる前は,訴訟で勝訴できる弁護士みたいなものに漠然と憧れを抱いたりしていたものですが,
実は紛争を訴訟に持ち込まないで解決する方が,依頼者の方の様々なご負担を考えても,一番良い方法なのでは
ないかと思うようになりました。

そんな時に,廣田尚久先生の,『和解という知恵』(講談社現代新書)という本に出会いました。

廣田先生は,川崎製鉄で勤務された後に弁護士登録され,九州大学法学部や大学院でも
紛争解決についてご講義されたご経歴をお持ちの先生です。

和解というものについて,訴訟との対比をすることでその機能と効用を正面から捉え,
和解を効果的に使うことで紛争を解決することを研究されており,その成果が一部
あらわされているのが『和解という知恵』というご著書です。

その中では,訴訟と対比した場合の和解の特徴として,以下のようなものが挙げられています。

1 訴訟においては,勝訴した側が100をとり,敗訴した側が0となる。
  これは,仮に勝訴した側の権利の重みが51%で,敗訴した側の権利の重みが
  49%だった場合でも変わらない。
  一方,和解においては,お互いの権利の重みに応じた解決が実現できる可能性がある。

2 訴訟においては,要件事実論に従い,因果律に従ったかたちで紛争が解決される。
  一方,和解においては,因果律にはこだわらず,共時性の原理も使う。

ほかにもいろいろと比較はされていますが,私が改めてハッとさせられたのは以上の二つでした。

特に,問題を解決する際に,法律構成を気にし過ぎる余り,因果関係はなくても,
偶然にみえる複数の現象の意味を探ると,そこに解決の糸口があるかも
しれないということを意識して事案をみることが最近できなくなっていないか,と
考え直すきっかけになりました。

さらに,『和解という知恵』によると,廣田先生が実際に手掛けられた事件等の例から,
和解をやりとげる方法が説明されます。

その中には,普段から漠然と考えてはいても,意識して整理はしていなかったものや,
なかなか一朝一夕には真似できないものもいろいろ説明されていましたが,自分が
ぼんやり考えていただけのことをこんなに突き詰めて整理されている方がいらっしゃることが
分かり,それだけでも大変刺激になりました。

和解に対して抱いている,なんとなくぼんやりしたつかみどころのないイメージが消えて,
積極的に和解をいろいろな場面で試すことができるきっかけになるので,実務家の方には
お勧めですし,さらに,法律家でなくとも,紛争がどのように解決されるのかを理解したい方には
ご一読をお勧めします。

詐欺罪につき実行の着手があるとされた事例-最判平成30年3月22日

 事案は,被告人が,被害者から現金をだまし取ろうと考えた氏名不詳者らと共謀したうえで,氏名不詳者において,被害者に対して警察官を名乗る数回の電話により,電話相手が警察官であり,その指示に従わなければならない旨誤信させて現金を払い戻させた後,被告人において,被害者から現金の交付を受けようとしたが,被害者方付近で警戒中の警察官に発見されて逮捕されたため,その目的を遂げなかったというものです。
 財物の交付自体を求める行為は行われていないことから,詐欺罪の実行行為である「人を欺く行為」自体への着手がいまだ認められないため,被告人側の弁護士が詐欺未遂罪も成立しないと争ったものでした。

 判旨は,おおよそ以下のとおりの内容です。

 氏名不詳者は,被害者に対し,1回目の電話で「昨日,駅のところで,不審な男を捕まえたんですが,その犯人が被害者の名前を言っています。」「昨日,詐欺の被害にあっていないですか。」「口座にはまだどのくらいの金額が残っているんですか。」「銀行に今すぐ行って全部下ろした方がいいですよ。」など言い,その後,2回目の電話で「僕,向かいますから。」「2時前には到着できるよう僕の方で態勢整えますので。」などと言っており,これらの行為は,被害者をして,本件嘘が真実であると誤信させた上で,後に被害者宅を訪問して警察官を装って現金の交付を求める予定であった被告人に対して現金を交付させるための計画の一環として行われたものであり,本件嘘の内容は,その犯行計画上,被害者が現金を交付するか否かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであったと認められる。
 そして,このような計画の下において述べられた本件嘘には,被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれており,既に100万円の詐欺被害に遭っていた被害者に対し,本件嘘を真実であると誤信させることは,被害者において,間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえ,このような事実関係の下においては,本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において,被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,詐欺罪の実行の着手があったと認められる。

 また,本判決には,いわゆるクロロホルム事件(最決平成16年3月22日)を引用し,『犯罪の実行行為自体ではなくとも,実行行為に密接であって,被害を生じさせる客観的な危険性が認められる行為に着手することによっても未遂罪は成立しうる。したがって,財物の交付を求める行為が行われていないことは,詐欺未遂罪が成立しないということを必ずしも意味するものではない。未遂罪の成否において問題となるのは,実行行為に「密接」で「客観的な危険性」が認められる行為への着手が認められるかであり,この判断に当たっては「密接」性と「客観的な危険性」とを,相互に関連させながらも,それらが重畳的に求められている趣旨を踏まえて検討することが必要である。特に重要なのは,無限定な未遂処罰を避け,処罰範囲を適切かつ明確に画定するという観点から,上記「密接」性を判断することである。』とした上で,本件では,被害者宅を訪問した被告人が現金を交付させることが計画され,その時点で「人を欺く行為」が予定されているものの,警察官の訪問を予告する2回目の電話はその行為に「密接」なものであり,また,1回目の電話と一連のものとして行われた2回目の電話の時点で,被害者が一連の嘘により欺かれて現金を交付する危険性が著しく高まったといえるから,2回目の電話によって,詐欺未遂罪の成立が肯定できるとする,山口厚裁判官の補足意見が付されています。

 従来からの裁判例と山口裁判官のご見解に沿った判断であるといえます。

ペットの相続

相続問題のご相談をお受けしていると,一定数遭遇するのが,「ペットに関するご相談」です。

その中でも,一番多いのが,「相続放棄したいがペットだけはなんとか遺された親族で面倒をみつづけたい」というご相談です。

被相続人に借金が多かったので相続放棄したいが,ペットは今までも家族が面倒をみてきたので,これからも面倒をみていきたい,という場合,どのような点が問題となるでしょうか。

まず,大前提として,ペットを可愛がってらっしゃる方々には少し失礼な考え方かもしれませんが,ペットは法律上は物として扱われます。

したがって,日本の法律では,ペットについては,だれかに所有権がある,ということになります。

そこで,ペットについて相続が発生するかどうかは,被相続人がペットの所有者かどうかが最初の分かれ目になります。

原則としては,ペットを購入するためにお金を出した人が所有者ということになると考えられますので,そのような場合は,相続の問題となり得ます。

次に,「相続放棄する一方で,ペットの面倒は見続けられるか」という問題については,民法921条との関係で問題となります。

民法921条は,柱書で,「次に掲げる場合には,相続人は,単純承認をしたものとみなす。」と定め,各号に定める行為をした場合は,相続放棄はできず,相続を承認したものと扱う,としています。

相続財産からある面で利益を得ていながら,債務だけを逃れるために相続放棄するような行為を認めないという趣旨と,相続財産についての法律関係を不安定な状態に長期間置かないという趣旨と考えられます。

そして,その1号には,「相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。」とありますので,ペットを「処分」したときは,相続放棄できないことになりそうです。

この「処分」には,譲渡などの法律上の処分のみでなく,滅失・棄損・変更などの事実行為も含まれるという解釈です。

もちろん,ペットを経済的に評価して,財産的価値がそれほど高くないのであれば,そもそも相続財産として考慮しなくてもよいという場合もありそうですが,仮にペットが相続財産に含まれるとした場合,ペットに対してどんなことをしたら「棄損」にあたるのか,正直はっきりしません。

しかし,ペットは,生き物である以上,世話をしないと弱って死んでしまいます。

誰かが面倒をみなければならないのも事実です。

ここで,さきほどの民法921条1号をみると,ただし書に,「保存行為・・・をすることは,この限りでない。」と書かれています。

「保存行為」とは,~なので,死なないように世話をするのは保存行為とみることができます。

そうすると,ペットの面倒をみても,相続放棄はできるという結論になる場合がほとんどと思われます。

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