自己破産と保険について(1)

第1 自己破産をした場合,保険はどうなるのでしょうか?

1 残せる場合と,残せない場合があります

自己破産して借金をきれいにしたいが,一方で保険は残したい・・・

このようなニーズは必ずあると思います。

特に生命保険については一度解約してしまった場合,契約し直すことは年齢等の制約があるため困難を伴うことがあります。

基本的には自己破産をしても最大99万円までの財産は手元に残せる可能性があるため,生命保険を残すことができる可能性があります。

2 自己破産における保険の財産的な評価

(1)解約返戻金の金額

保険の価値は,その保険を解約した場合に返還されるお金(解約返戻金といいます)の金額です。

(2)契約者貸付を受けている場合

保険の中には,解約返戻金の金額の限度でお金を借りることができるものがあります(契約者貸付といいます)。

契約者貸付を受けている場合,自己破産における保険の財産的な評価の仕方は少し変わってきます。

例えば,解約返戻金の金額が100万円ある保険について,契約者貸付で70万円を借りている場合,自己破産における保険の財産的な評価は30万円であるとされるこ

とが原則です。

(3)直前の現金化の問題にご注意ください

しかし,自己破産手続きの直前に契約者貸付を受けた場合は,直前の現金化という問題が残ります。

自己破産手続きの直前に財産を費消しやすい現金に換えてしまうことで財産隠しができてしまうという問題意識です。

契約者貸付を受けた場合,それにより受け取った現金の使い道が問題となります。

例えば生活費であれば問題がないとも思えますが,浪費していると見られてしまうと,自己破産手続きの中でいくらかは弁償を求められる可能性があります。

求められなかった弁償ができなかった場合は,免責(借金を0にする手続き)が許可されないおそれがあります。

 

第2 保険の問題が絡む自己破産については,ネット情報だけに頼らず弁護士にご相談ください

今日,ネットで検索をすれば自己破産と保険に関するサイトはいくらでも出てきます。

しかし,自己破産を含む倒産事件の大きな特徴として,地方ごとに裁判所の運用が大きく違うことが挙げられます。

名古屋にお住まいの方がたまたまネットで見つけたページは,名古屋以外の地域について説明しているサイトかもしれません。

また,そもそも不正確な情報であったり,誤解を生むような表現になっていることがあります。

ネット情報も有用ですが,正確な情報を得るためにはお住まいの地域の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

第3 次回について

自己破産と保険の問題に関しては,近時最高裁判所の新しい判例が出ており注目されています。

それだけに最新の動向を踏まえた方針の選択が必要になってきています。

次回は受け取った保険金と自己破産に関して近時の最高裁判所の判断を説明したいと思います。

弁護士とスタッフについて

1 弁護士とスタッフ

弁護士業務は複雑多岐にわたり,弁護士1人の力ですべてを処理していくことは,時に困難です。

事件の数が増えてくるにつれ,必ずスタッフの方の力を借りる必要が出てきます。

スタッフの方と協力して,よい事件処理ができるように努めていきたいと思います。

 

2 ご報告

先日,弁護士法人心柏駅法律事務所が発足しました。

柏や近辺にお住まいの方は,お気軽にご相談ください。

弁護士法人心の弁護士およびスタッフの情報はこちらからご覧いただけます。

 

 

 

 

弁護士の出張相談

1 弁護士の出張相談について

法律問題は全国どこにでも発生する可能性があります。

問題に直面したとき,頼りにすることができる弁護士がいるかどうかの差は大きいものです。

ただ,弁護士の数が多くない地域も存在します。

そのようなときは,出張相談という形で遠方の地域に相談に行くことがあります。

2 弁護士法人心について

弁護士法人心には複数の事務所が存在し,出張先でもその地域の拠点で相談の対応ができます。

このたび,新たに弁護士法人心柏駅法律事務所が設立されました。

弁護士法人心柏駅法律事務所のホームページはこちらになります。

 

 

欧陽修について

こんにちは。

名古屋で倒産事件を取り扱っている弁護士の橋場です。

今回は、欧陽修の言葉についてお話したいと思います。

1 欧陽修について

欧陽修は11世紀ごろの中国の政治家、詩人・文学者、歴史学者です。

その作品等は非常に有名で、ご存知の方も多いことでしょう。

2 「三上」

「三上」という言葉を残しています。

これは良い考えの生まれやすい状況が3つあるというものです。

1つ目は乗り物に乗っている時

2つ目は布団で寝ている時

3つ目は便所の中です。

欧陽修が言う「三上」と全く同じではないのですが、私自身、非常に共感できる部分があります。

パソコンの前にじっと座っているだけでは考えがまとまらないときがあります。

一度席を立って散歩してみたり、10分程度仮眠をとってみたりすると、考えが整理されたり、手詰まりだと思っていた事案が以外とそうでもないことに気がつくことがあります。

先人の言葉はよいアドバイスになることを改めて実感した次第です。

 

 

 

 

外部の方との交流

こんにちは。

名古屋で倒産事件を中心に扱っている弁護士の橋場です。

今回は、外部の法律事務所の方との交流についてお話します。

1 外部の法律事務所の方の話を聞く機会の確保について

自分が所属している事務所の方とは、事件のことなどについて相談する機会を作ることは比較的容易であることも多いでしょう。

しかし、外部の法律事務所の方と仕事に関する話をする機会は以外と限られています(もちろん守秘義務に反しないことが大前提です)。

外部の弁護士との交流を作るためには、自分から積極的に外部との交流の機会を意識して作ることが必要になってきます。

私は倒産実務委員会に所属しており、委員会での議論は取り扱い分野と関連が強いため、大変勉強になっています。

 

2 外部との交流での発見

外部の法律事務所の弁護士の話を聞くことで、新鮮な発見を得られることもよくあります。

期が上の先生のお話を聞く機会は大変貴重なものです。

また、同期や期が近い弁護士がどのような仕事をしているのかということは聞いていて刺激になることもあります。

多くの方の話を聞くことで、少しでも業務の質を上げていきたいものですね。

 

弁護士業務と会計知識について

こんにちは。

名古屋で倒産事件を中心に取り扱っている弁護士の橋場です。

今回は,弁護士業務と会計知識についてのお話をしようと思います。

1 会計知識が必要な場面の例

(1)倒産事件

個人事業者や会社の倒産事件を取り扱う際には会計知識が必ず必要になってきます。

会計知識は,決算書を読み解いたり,事業についての説明を聞いてイメージを作るための前提になってきます。

資格まで取る必要はないかもしれませんが,さしあたっては簿記2級程度の知識があれば,スタートラインには立てると思います。

(2)企業関係の事件

企業関係の事件と一口にいうとあまりにも漠然としていますが,例えば営業損害についての損害賠償請求事件が例に挙げられます。

損害の算定の仕方には様々な要素がありますが,少しでも依頼者に有利な算定となるように事件を進めるためには,営業損害の算定の仕組みを理解していること

が必要となってきます。

2 最近読んだ本

「ストーリーでわかる営業損害算定の実務」という本が,導入にはもってこいだと思います。

前提知識がなくても読み進めやすい部類の本である一方で,実際の裁判例も挙げられています。

また,会計用語の意味がわかりやすく解説されており,どのような仕組みで営業損害を算定していくのかという思考過程がよくまとまっているという印象です。

執筆者は弁護士兼会計士の先生であり,弁護士の視点と会計士の視点で描かれている点も新鮮です。

先入観を持たず様々な分野の勉強をすることが,中心となる取り扱い分野にも生きてくるのだと思いました。

 

 

 

司法試験について

こんにちは。

名古屋で倒産事件を中心に扱っている弁護士の橋場です。

今回は司法試験についてお話ししようと思います。

1 司法試験の概要

平成29年の司法試験は5月17日(水)から始まります。

司法試験は論文式試験と短答式試験に分かれており,合計5日間(休憩の日を含む)を戦う長丁場です。

2 体調に気をつけて

おそらく聞き飽きているかと思いますが,受験生の皆さんは,くれぐれも体調に気をつけてください。

本当に大切なことだからこそ,聞き飽きるほどに聞く機会があるのだと思います(笑)

かくいう私の受験時の体調は最悪で,試験終了後の体重は試験開始前と比べて5キロも減っていました(>_<)。

直前期は余分なストレスを抱えないように適度な気分転換もしてくださいね。

事業者の破産について

こんにちは。

名古屋で倒産事件を中心に扱っている弁護士の橋場です。

毎年,3月から4月にかけては,事業者の方の倒産事件の依頼が舞い込むことが多いです。

理由はいくつか考えられますが,日本では3月を決算時期としている会社が多く,会社の業績を確認して倒産の決断をされることが主な理由といえます。

相談に来られた方のお話を伺っているときは,非常に辛い決断をされたことが痛いほどに伝わってきます。

事業者の方にとって少しでも良い再スタートとなるよう,お手伝いをさせていただく仕事に携わることができることに対して,大きなやりがいと責任を感じる次第です。

 

委員会について

こんにちは。

名古屋で倒産事件を中心に扱っている弁護士の橋場です。

今日は委員会についてお話ししようと思います。

弁護士が弁護士として活動するためには,弁護士会に加入し,弁護士登録をしている必要があります。

そして,弁護士会には,委員会が多数存在しています。

活動内容は様々です。

一例をあげると,特定の専門分野についての研究発表を行うこと,他業種との交流を行うこと,司法制度や弁護士会の今後の在り方を考える委員会が存在します。

先輩弁護士からは,「弁護士は孤立してはならない」という趣旨のアドバイスをいただきました。

委員会活動は,一定の目的をもった方々が集まり,議論を深めるなどして,交流を図ることができる場であるといえるかもしれません。

委員会活動に限らず,多くの方から学び,自らも何かしらの価値を提供できる良い関係を作りたいものですね。

書籍の購入

こんにちは。

名古屋で倒産事件を中心に扱っている弁護士の橋場です。

今回は,書籍の購入についてお話したいと思います。

よく,弁護士は一生勉強といわれます。

司法試験はゴールではありません。

弁護士になってからの方が,学ぶべきことは本当にたくさんあります(本来であれば弁護士になる前に身につけておくべきこと,身につけておけばよかったこともたくさんあるのですが)。

学ぶための一つの方法として,書籍を購入することが必要になる場合があります。

よくわからない分野について一から調べることが時に必要となるため,該当分野で実務上参照されている本が存在するのであれば,そのような有力な本を使うことが無難かもしれませんね。

 

 

無料法律相談

こんにちは。

名古屋で倒産事件を中心に扱っている弁護士の橋場です。

先日,某所で無料法律相談を担当させていただきました。

私自身が普段取り扱うことが少ない分野の相談が多く,程よい緊張感をもって臨むことができました。

また,法律ではいかんともしがたい問題も多く,歯がゆい場面もあったところです。

学生の頃,「法律は道具にすぎない。本質的な問題の解決は別のところにある」との教授の教えを身をもって実感する機会となりました。

今回の無料法律相談に来ていただいた方々がよりよく生きるため,少しでもお役に立てたのであれば,これ以上の喜びはありません。

 

破産・再生と自動車の所有権留保(6)

こんにちは。
名古屋で倒産事件を中心に扱っている弁護士の橋場です。

前回のブログで,信販会社が登録名義を有していない自動車について倒産手続開始前に留保所有権に基づき自動車を引き上げ換価することは否認対象行為となりうることを検討しました。

現状では,契約書に信販会社が民法の法定代位により留保所有権を取得できる旨の記載がある場合には,引き上げて換価しても否認対象行為としないことがあるようです。

今回は,否認における有害性の観点からの検討を加え,あえて現状に反対する見解を検討したいと思います。

1 否認における有害性

一般に,別除権の対象となっている物からの一般債権者への配当は期待されておらず,したがって担保目的物から特定の債権者が優先弁済を受けても有害性は認められません。

しかし,今回問題にしている自動車の留保所有権については,信販会社に対抗要件がないため,有害性を問題とする余地があります。

2 強制執行の場面からの検討

一般論としては以上のとおりなのですが,強制執行の場面を検討してみると,有害性が本当に認められるのか,若干の疑問があります。

というのも,債務名義に基づき強制執行をするためには,債務名義上の債務者(今回でいえば破産や個人再生をする方)と差し押さえるべき財産の所有者(今回でいえば登録名義のある販売会社ということになります)が一致していることが必要です。

そうすると,今回の事例では不一致があることが明らかであり,少なくとも一般債権者が強制執行することはできないと考えられます。

帰結としては,このような状況で自動車を強制執行して換価できるのは事実上販売会社か信販会社のみということになります。

したがって,自動車からの一般債権者への配当は期待されていないといえ,信販会社が登録名義を有していない自動車について倒産手続開始前に留保所有権に基づき自動車を引き上げ換価したとしても,否認における有害性を欠くという考え方も成り立つともいえるでしょう(以上の点につき,事業再生と債権管理第155号82頁参照)。

3 まとめ

今回の分野は未だ見解が固まっていない分野です。

今後事情が変わり,結論も変わってくる可能性があります。

倒産事件を扱う一弁護士として,今後の流れに注目していきたい分野です。

破産・再生と自動車の所有権留保(5)

こんにちは。
名古屋で主に倒産事件を扱っている弁護士の橋場です。

前回に引き続き,今回は,判例タイムズ1424号の野上誠一大阪地方裁判所岸和田支部判事の見解や,事業再生と債権管理(第155号)の特集の記事の考え方や,最高裁第二小法廷判決平成22年6月4日民集64巻4号1107頁の事例(以下「平成22年判決」といいます)をやや変化させた場合を検討していきます。

第1 事例

1 平成22年判決の事例のおさらい

平成22年判決の事例をもう一度整理すると,大まかに以下のような事例でした。

①販売会社が購入者に対し,自動車を売る(このとき自動車の登録名義は販売会社でした)。

②信販会社が,自動車の残代金全額を販売会社に立替払いをする。

③購入者は信販会社に対し,自動車の残代金相当額に手数料額を加算した金員(以下「立替金等債務」とします)を分割して支払うこととする。

④購入者は自動車の登録名義のいかんを問わず,販売会社に留保されている自動車の所有権が,信販会社が販売会社に残代金を立替払することにより信販会社に移転し,購入者が立替金等債務を完済するまで信販会社に留保されることを承諾する。

⑤購入者が代金の支払いを怠ったため,立替金等債務について期限の利益を喪失

⑥購入者について,個人再生手続開始決定

⑦信販会社が④の留保所有権に基づき自動車の引き上げを請求

 

2 ⑥と⑦の順番を入れ替えた場合,どうなるのか

この場合,個人再生手続開始決定により再生債務者の第三者性が認められる以前に留保所有権が行使されることになります。

そうすると,信販会社名義の登録という対抗要件がないことを理由に留保所有権の行使を認めなかった平成22年判決の理由づけでは,留保所有権の行使を拒むことはできないということになります。

3 信販会社が個人再生手続開始決定前に留保所有権に基づき自動車の引き上げを請求した場合,これに応じることの当否

第三者性が認められる以前に引き上げを請求されていたのだから,対抗要件の問題にはならず,引き上げを認めても後の否認権行使の問題にならないとの考えもありうるように思えます。

しかし,これでは信販会社が個人再生手続開始前に引き上げを請求しさえすれば,自動車を売却して換価できることになってしまいます。

たまたま平成22年判決の事例の⑥,⑦を逆にしたがために逆の結論となることは,いかにもバランスを欠いているように思えます。

この点について,裁判所ごとの統一的な見解が示されているわけではないようです。

しかし,判例タイムズ1424号の野上誠一大阪地方裁判所岸和田支部判事の見解をはじめ,田髙寛貴教授の論文(「多当事者間契約による自動車の所有権留保」金融法務事情1950号59頁)や,破産管財実践マニュアル第2版といった有力な文献では,倒産手続開始前に信販会社が留保所有権に基づき自動車を引き上げ換価することは否認対象行為となりうることが述べられています。

現状では,契約書に信販会社が民法の法定代位により留保所有権を取得できる旨の記載がないケースにおいて,直ちに自動車を引き渡してしまうことはやや危険かもしれません。

 

 

破産・再生と自動車の所有権留保(4)

こんにちは。

名古屋で倒産事件を中心に扱っている弁護士の橋場です。

前回に引き続いて,自己破産において自動車の引き上げが認められないと同時廃止にできない場合がある点についての説明をしていきます。

第1 前回の続き

同時廃止になる場合がある場合として,次のような基準を前回でご紹介しました。

・返済ができないような状況であったにもかかわらず,特定の債権者にのみ返済をしていたという事情がない場合

ところでこの基準について,別除権の説明を補足する必要があります。

第2 別除権とは

別除権とは,例えば抵当権や今回紹介している最高裁判例の留保所有権のことです。

対抗要件を備えた別除権を有する者(別除権者)は優先弁済を受ける権利を持っているため,他の一般の債権者を差し置いて弁済を受けることが認められています。

したがって,前回の事例のように自己破産をする2年前に自動車をローンで購入していた場合,対抗要件を備えた留保所有権に基づいて自動車を信販会社に引き上げさせることができれば,返済ができないような状況であったにもかかわらず,特定の債権者にのみ返済をしていたという事情がない場合といえてしまうのです。

この場合は同時廃止という簡易な手続で費用を抑えて自己破産をすることができる可能性が残ります。

逆にいえば,信販会社の自動車の留保所有権に対抗要件が認められないと判断された場合(今回紹介している最高裁の判例),返済ができないような状況であったにもかかわらず,特定の債権者にのみ返済をしていたという事情がない場合とはいえず,管財事件となってしまう可能性が出てきていしまいます。

このように,自動車の引き上げが法的に認められるかどうかは,自己破産する方が負担する費用にかかわってくる重要な問題になりえます。

次回は,前回ご紹介した文献で扱われている考え方や,最高裁判例の事案をやや変化させた場合の処理について紹介していきます。

破産・再生と自動車の所有権留保(3)

こんにちは。
名古屋で倒産事件を主に取り扱っている弁護士の橋場です。

前回の事例で紹介した最高裁第二小法廷判決平成22年6月4日民集64巻4号1107頁についての検討を行っていきます。

第1 上記最高裁判決に対する評価や現状への影響

この最高裁決定に関してはさまざまな評釈があり,今なお考え方が確立しているとは言い難い状況にあります。

現に,全国各地の裁判所の判断を比べてみても,統一的な判断がなされているとは必ずしもいえません。

そこで,判例タイムズ1424号の野上誠一大阪地方裁判所岸和田支部判事の見解や,事業再生と債権管理(第155号)の特集の記事を参考に検討を加えていこうと思います。

第2 そもそも自動車の引き渡しの可否はなぜこれほどに問題となるのか

この点については,ひとつのポイントとしては,破産手続にかかる費用の問題が大きくかかわっていると考えられます。

一般に,個人の方が自己破産をする場合,費用は大きく分けると①弁護士費用②裁判所に収める費用の2つです。

その他,郵券代などの実費がかかります。

このうち,②の裁判所に収める費用については,約1万円で済む場合と,約20万円から40万円,場合によってはそれ以上と高額になってしまう場合があります。

結論からいうと,自動車の引き渡しの可否は,この裁判所に収める費用に直接かかわってくる問題です。

以下で,順番に説明していきます。

第3 裁判所に収める費用が約1万円で済む場合

この場合の破産手続は「同時廃止」と呼ばれています。

同時廃止になる基準について,例えば次のような場合となっています。

・破産者が高額な財産を有していない場合(名古屋地裁の運用では,破産者に30万円以上の価値のある個別資産がない場合)

・負債が増えてきた経緯が,浪費やギャンブルといった悪質なものではない(破産免責が許されない事情がない場合)

・返済ができないような状況であったにもかかわらず,特定の債権者にのみ返済をしていたという事情がない場合

この他にも名古屋地裁には細かいルールが存在するのですが,その点については別の機会にご紹介します。

ともかく,同時廃止になる基準をおおまかにいってしまえば,財産が少額であり,借入の使い道がある程度まともであり,一部の債権者のみを優遇しているといった事情がないといったことです。

今回ご紹介している判例は,

・破産者が高額な財産を有していない場合

・返済ができないような状況であったにもかかわらず,特定の債権者にのみ返済をしていたという事情がない場合

の部分にかかわってきます。

第4 具体的にはどういうことか

たとえば2年ほど前にローンを組んで車を購入した方が自己破産の申立てをしようとする場合を考えてみます。

仮に,自動車の引き上げがなされないまま破産手続が開始されるとするとどうなるか。

2年ほど前に買ったばかりの車は,売却すれば優に30万円を超える個別資産と言えることが多いと思われます。

そうすると,破産者が高額な財産を有していることとなり,同時廃止の基準を満たしません。

次回は,同時廃止のもう一つの基準である,返済ができないような状況であったにもかかわらず,特定の債権者にのみ返済をしていたという事情がない場合の点について説明していきます。

 

 

 

 

 

 

破産・再生と自動車の所有権留保(2)

1 前回紹介した事例における最高裁の判断
こんにちは。名古屋で主に倒産事件を扱っている弁護士の橋場雄貴です。

前回の事例で紹介した最高裁第二小法廷判決平成22年6月4日民集64巻4号1107頁は,次のように判断しました。

販売会社・信販会社・購入者間の契約(三者契約)は,販売会社において留保していた所有権が代位(民法500条以下)により信販会社に移転することを確認したものではなく,信販会社が,立替金等(残代金相当額に手数料額を加算した金員)の債権を担保するために,販売会社から自動車の所有権の移転を受け,これを留保することを合意したものと解するのが相当であり,信販会社が別除権として行使し得るのは,立替金等の債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべきである。

そして,再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには,原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記,登録等を具備している必要があるのであって(民事再生法45条参照),自動車につき,再生手続開始の時点で信販会社を所有者とする登録がなされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,信販会社が,上記契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。

2 上記最高裁判例の説明

最高裁は信販会社側の,販売会社が留保していた自動車の所有権が民法500条以下の法定代位により移転したに過ぎないのだから,信販会社が改めて信販会社名義の自動車の登録をする必要はなく,販売会社名義の自動車の登録をもって再生手続開始後の再生債務者に対する第三者対抗要件とすることができる旨の主張を排斥しています。

そうすると,信販会社は,再生手続開始前に新たに信販会社名義の自動車の登録を備えなければ,留保所有権を対抗できないということになります。

最高裁の判断は,三者契約の内容として,販売会社の留保所有権が信販会社の立替払によって法定代位(民法500条以下)を根拠として移転することを,当該事案においては否定していると読むことができます。

次回以降で,最高裁判例の分析や当該事例の前提を変えた場合どうなるかといった付随的な問題について扱っていきます。

破産・再生と自動車の所有権留保(1)

1 破産および再生手続と自動車の所有権留保について

こんにちは。名古屋で主に倒産事件を扱う弁護士をしている橋場雄貴です。
破産事件や再生事件を扱っていると,債務者の使用している自動車の契約書に所有権留保条項が入っている事案をよく見かけます。
受任通知を送付した後,自動車の信販会社から,所有権留保のついた自動車であるから引き上げに同意してほしい旨の電話を受けたり,書面が届くといったことが多いです。
中には,判例などの文献を同封して,自動車の引き上げの権利について詳細に説明する書面を送ってくださる債権者もいます。

2 一般的な自動車の購入契約
一般に,自動車をローンを組んで購入する場合,登場人物は販売会社,購入者,信販会社です。
以下に,簡略化した事例を紹介します。

①販売会社が購入者に対し,自動車を売る(このとき自動車の登録名義は販売会社でした)。

②信販会社が,自動車の残代金全額を販売会社に立替払いをする。

③購入者は信販会社に対し,自動車の残代金相当額に手数料額を加算した金員(以下「立替金等債務」とします)を分割して支払うこととする。

④購入者は自動車の登録名義のいかんを問わず,販売会社に留保されている自動車の所有権が,信販会社が販売会社に残代金を立替払することにより信販会社に移転し,購入者が立替金等債務を完済するまで信販会社に留保されることを承諾する。

⑤購入者が代金の支払いを怠ったため,立替金等債務について期限の利益を喪失

⑥購入者について,個人再生手続開始決定

⑦信販会社が④の留保所有権に基づき自動車の引き上げを請求

3 問題の所在
所有権留保は,破産手続や再生手続においては別除権として扱われています。
そうすると,破産手続開始決定や再生手続開始決定が出されて破産管財人や再生債務者といった第三者の地位を有する者が出てくる場合,対抗要件がなければ所有権留保という別除権を対抗できないことになります。
上記の事例でいえば,信販会社が購入者に代わって立替払を行っても,自動車の登録名義が販売会社名義であれば信販会社には自動車の留保所有権の対抗要件がないのだから,⑦の留保所有権に基づく請求は認められないのではないか,という問題が生じるのです。

4 所有権留保についての最高裁判例
最高裁第二小法廷判決平成22年6月4日民集64巻4号1107頁の事件においては,信販会社の留保所有権に基づく自動車の引き上げが認められるかが問題となりました。

問題点は,信販会社名義の自動車の登録がない以上,信販会社の留保所有権には対抗要件がなく,留保所有権に基づいて引き上げを認めることには法的根拠がないのではないかという点です。

信販会社は,販売会社が留保していた自動車の所有権が民法500条以下の法定代位により移転したに過ぎないのだから,信販会社が改めて信販会社名義の自動車の登録をする必要はなく,販売会社名義の自動車の登録をもって再生手続開始後の再生債務者に対する第三者対抗要件とすることができる旨主張しました。

次回以降は,この事例に対する最高裁の判断についての説明や,事例の⑥と⑦の順序が逆であったらどうなるのか,登録がなされない軽自動車の場合はどうなるのかといった問題について扱っていきます。