契約書の「合意管轄条項」の記載例と注意点

最終更新日2021年3月11日

1 合意管轄とは?

合意管轄というのは,「もし将来,訴訟をすることになったら●●の裁判所でやりましょう」というのを契約当事者間であらかじめ決めておくものです。

裁判所の管轄については法律上定められていますが,契約であらかじめ管轄裁判所を定めることもできるのです(民事訴訟法11条1項)。

裁判所の管轄について詳しくはこちらをご覧ください。

 

2 裁判所の管轄が重要な理由

裁判をする相手方が近くにいる場合にはそれほど問題になりませんが,遠くにいる相手と裁判をする場合には,自分の所在地と相手の所在地のどちらにある裁判所で裁判をするのかが重要な問題になります。

遠方で裁判をする場合,近くの弁護士に依頼すると,通常,交通費・出張費がかかりますし,他方で,自分の所在地から離れた現地の弁護士に依頼すると,直接会っての打ち合わせがしにくいという問題があります。

また,本人尋問や証人尋問がある場合には,本人や証人が裁判所に出向かなければなりませんが,遠くの裁判所だと大変です。

そのため,訴えたり,訴えられたりするときに備えて,近くの裁判所で裁判ができるようにしておくというのが実務上重要なのです。

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3 契約書の合意管轄条項の記載例

私は,「甲及び乙は,本契約に関し裁判上の紛争が生じた場合には,名古屋地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」といった条項を入れることが多いです。

 

4 合意管轄条項の注意点

上記の記載例のポイントは,専属的合意管轄裁判所と,「専属的」と入れている点です。

合意管轄には,「付加的合意管轄」と「専属的合意管轄」があります。

以下では,法律上は,A裁判所とB裁判所に管轄がある場合において,契約で,C裁判所について合意管轄をしたという例で解説します。

⑴ 付加的合意管轄の場合

付加的合意管轄とは,「法律上管轄のあるA裁判所やB裁判所に加えて,C裁判所でも裁判できる」というように管轄裁判所を加えるものです。

この場合には,A裁判所やB裁判所でも裁判ができてしまうため,相手方に先に遠方で裁判を起こされると厄介なことになります(移送という制度もありますが,話が複雑になるためここでは触れません)。

⑵ 専属的合意管轄の場合

専属的合意管轄は,「C裁判所だけでしか裁判できない」というように,管轄裁判所を限定するものです。

この場合には,A裁判所やB裁判所では裁判をすることができず,C裁判所のみで裁判をすることができることになります。

⑶ 「専属的」と明記しておくことが重要

このように,付加的合意管轄か専属的合意管轄かで,どこで裁判できるかが大きく変わってきます。

管轄裁判所を特定の裁判所に限定しておきたいという場合には,本来不要な争いを生まないためにも,「専属的」と明記しておくのがよいと思います。