錯誤取消し

最終更新日2019年10月8日

弁護士に限らず民法を勉強したことのある方であれば,「錯誤無効」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

現行民法95条本文は,「意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。」としており,これが錯誤無効です。

例えば,宝石を100万円で買おうと思い,間違って100万$で買うと意思表示してしまった場合,錯誤があったとして,その意思表示を無効と主張できるのです(ただし,意思表示をした人に重大な過失があった場合は無効を主張できないので注意が必要です)。

錯誤の例

 

錯誤無効と似たものとして,「詐欺取消し」があります。

これは,現行民法96条1項で,「詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる」とされています。

例えば,宝石がダイヤモンドだと説明されたので,100万円で買おうと思い,100万円で買うと意思表示したが,実はダイヤモンドではなくガラス製だったという場合には,詐欺によるものだとして,意思表示を取り消すことができます。

ところで,錯誤の場合は「無効」,詐欺の場合は「取り消し」と異なっているのはなぜでしょうか。

これについて,錯誤の場合は,意思表示に対応する意思(専門用語では内心的効果意思といいます),上記の例では,「宝石を100万$で買う」という意思は存在しない(「円」「$」と間違えたのであって「100万$」で買うつもりはそもそもない)のに対し,詐欺の場合には,騙されてはいるものの「宝石を100万円で買う」という意思(内心的効果意思)があるのです。

錯誤と取消しの比較

つまり,内心的効果意思の存在しない錯誤の場合には,そもそも意思表示が無効であるのに対し,内心的効果意思が存在する詐欺の場合には,意思表示は一応有効だけれども取り消すことができるというわけです。

このように,内心的効果意思の有無の違いによって,「無効」と「取り消し」が区別されているというのが従来の考え方でした。

ところが,今回の民法改正で,「意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。」とされ,錯誤の場合にも「取り消し」として扱われることになりました。

これが今回のタイトルの「錯誤取消し」です。

どうして取り消しになったのかや,現実問題として何か変わるのかについては,改めて書きたいと思います。